著者
野澤 淳史
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
vol.20, pp.165-179, 2014

本稿は,福島第一原子力発電所事故の影響によるリスクと被害の結びつきを明らかにすることを目的とする。具体的には,福島市で自立生活を送る障害者を対象に,生活環境の変化をリスクと捉え福島に留まらざるをえなかった障害者が直面した介助者不足の深刻化について,福島市にある自立生活センターのスタッフを中心とする聞き取りにもとづいた分析を行うことで,具体的に現れた被害がどのようなことがらであるのかを考察する。福島原発事故発生以降,障害者にとってリスクとは,むしろ福島から離れることを意味していた。避難や移住をめぐって制度的な制約を受けやすい重度の障害者であるほどこのリスクは高くなり,福島に留まらざるをえない。そうした状況の中,子どもを守る親のリスク回避行動によって介助者が減少し,かつ震災後の介護労働現場の選好の偏りを受けて新規の介助者が集まらなくなり,不足の問題は深刻化した。障害者が留まらざるをえないという「選択」の結果として介助者不足が深刻化し,自立の機会が奪われていくとすれば,それは被害の具体的な現れとして規定することができるのではないか。