著者
野田 岳仁
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は後に詳しく説明するようにコモンズの“排除性”という機能に注目し、分析を行った。前年度で検討したように、アクアツーリズムが対象とする地域の湧水や洗い場は地域の人びとのコモンズであることが観光資源としても意味を持ってきたのだが、それらを手入れしてきた管理組織は著しく弱体化しているため、アクアツーリズムに乗り出すにあたって、管理組織を強化するか、あるいは別の組織に管理を肩代わりさせる必要が生じるようになっている。すなわち、アクアツーリズムの現場では、地域のコモンズを開放することが政策的にも期待されるようになっているのである。ここで悩ましいことは、コモンズをただ開放すればよいかといえば決してそうではないことである。コモンズはある集団内で同質な構成員に限定されていたからこそ、合理的な資源管理が成り立ってきたからである。つまり、コモンズに内在する“排除性”という機能こそが資源管理能力を高めてきたのである。しかしながら、管理組織の弱体化という現実をふまえてみれば、資源管理に関心を示す異質で多様な担い手を新たに招き入れる必要があり、そうすると規範や規制の共有化は難しく、一時的であれ管理能力は低下することになってしまう。コモンズの資源管理能力を高めようとすれば、排除性を強めればよいのだが、そうすると新たな担い手を受け入れることが難しくなる。アクアツーリズムが対象とするような現代的なコモンズはこのような矛盾を抱えていることが明らかになった。そのうえで、コモンズを開放するにあたってもコモンズの排除性を損なうことなくどのように新たな担い手を受け入れることができるのか、各地の管理組織の論理の分析を行った。