2 0 0 0 OA 奈良の墨

著者
野田 盛弘
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.514-517, 2016-10-20 (Released:2017-04-03)
参考文献数
8

奈良の正倉院には,およそ1300年前に中国から伝来したと考えられる「墨」1)が伝わっている。その「墨」の外観を見る限り現在の墨とその製法が変わっている様子はなく,油煙もしくは松煙などの煤と膠を混練した後に成型,乾燥させたように見える。和紙に墨で書かれた文字は,正倉院文書が現代に伝わっているという事実から1300年の時を経ても変わることのない,長期保存安定性に優れた稀有な記録材料であるといえる。コロイドという言葉の語源でもある膠を利用した記録材料である墨は,現在も全国生産高の95 %以上が奈良の地で作り続けられており,現代ではコロイドの技術がインクジェットプリンターのインキや導電性塗料,化粧品など我々の身近な製品に多く利用されている。