著者
野田 裕紀子 (村本 裕紀子)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

インフルエンザウイルスの最大の特徴は、ウイルスゲノムが8本のRNA分節にわかれていることである。しかし「8本にわかれたゲノムRNAをどのようなメカニズムでウイルス粒子内に取り込むのか?」というゲノムパッケージング機構の謎はほとんど明らかにされていなかった。これまで、インフルエンザウイルス粒子にゲノムRNAが取り込まれる際に、8種類の遺伝子分節間にパッケージングシグナルを介したなんらかの相互作用が存在することが示唆された。つまり、パッケージングシグナルが遺伝子分節間の相性の良し悪しに関与していると予想される。そこで本研究では、遺伝子分節間の相性の良し悪しを指標として、どの遺伝子分節同士が強く相互作用しているのかを明らかにすることを目的としている。ヒトインフルエンザウイルス由来もしくは鳥インフルエンザウイルス由来のパッケージングシグナルをRNA分節の両末端に持ち、その内側には実験室株の全翻訳領域を持った変異分節をそれぞれ作製し、変異分節1分節と実験室株遺伝子7分節からウイルスレスキューを試みたところ、NP遺伝子またはM遺伝子に変異を入れると、それがヒトウイルス由来の遺伝子であっても、鳥ウイルス由来の遺伝子であってもウイルスがレスキューできないことがわかった。NP遺伝子やM遺伝子はインフルエンザウイルス蛋白質のうち、もっとも発現量が多い蛋白質である。また、パッケージングシグナルはウイルス遺伝子のプロモーター領域・ターミネーター領域にまたがる領域である。したがって、パッケージングシグナルの変異(重複)により、蛋白質発現が影響された結果、ウイルスレスキューされないと考察できた。つまり、本研究において、パッケージングシグナルを重複させると、遺伝子によってはウイルス遺伝子として機能できないことが明らかになった。