著者
野田 高広
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-15, 2010-01

アスペクト形式Vテイル・テアルの通時相については坪井(1976)以来相当な研究の蓄積があり多くの新しい知見が得られてきているが、特に中世以前には有生性(animacy)などの基準では説明ができない例(「偏に後世を思て念仏を唱へ<て有>___-けるに」(今昔物語集))が多く存在し問題になる。そこで本稿では『今昔物語集』を考察対象として、そこでは時空間的な個別性(specificity)と主格に立つ物の意図性が形式選択に深く関与しており、両者を共に満たす場合にテイルが選択される傾向が強いことを主張する。導入に続く2節では本稿のアスペクトの意味分類基準を示し、3節では資料の概要と方法について述べた。4節が実例の検討で、4.1と4.2では意図性に焦点を当てて論じ、4.3では傍証としてのヴォイス関連の現象を取り上げた。4.4では形式選択の時空間的個別性との相関について論じ、5節で結論を示した。