著者
Sakuma Yasuhiko
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
no.33, pp.219-238, 2013-01-31

鳥占いに関するヒッタイト語文書は数多く残されているが、鳥の飛行についての専門用語はこれまで充分に解明されていなかった。本論文は、関連するすべての術語を調査し、それらの意味を解明することを目指す。熊本裕先生退職記念号 Festschrift for Professor Hiroshi KUMAMOTO
著者
高山 林太郎
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.305-332, 2012-09-30

論文 Articles前部要素中または後部要素との境界に核がある複合動詞のアクセントを「前部アクセント」、全体として次末核または無核のものを「後部アクセント」と呼ぶことにする。東京では表出的な一部の語彙を除けば後部アクセントが支配的である。但し、前部要素が平板型なら後部アクセントは次末核型に、起伏型なら無核型になるという、所謂「山田の法則」が存在する。他方で、東京とよく似たアクセント体系を有する山陽地方では、前部要素の核を保存する前部アクセントとそうでない後部アクセントとが一定の割合で共存していて、地点によっては今後「山田の法則」が成立する可能性がある。東京の周辺地域の証拠から、東京でも古くは山陽地方のような複合動詞アクセントだったと考えられる。本稿は第一に、2単位形から前部アクセントへの変化と前部アクセントから後部アクセントへの変化は、後部要素と前部要素の核と音調句の喪失であり、意味を原因とする音調句の一体化であると説明する。第二に、前部要素が平板型で後部要素との境界に核があるタイプが無核化できないのは、共時的には前部要素の核ではないからだと説明する。第三に、次末核化より無核化が著しく先行しなければ「山田の法則」は成立しないと指摘する。In this paper, "front-accent" refers to the accent of compound verbs which has its descending kernel either in the front-part of the verb or between the front-part and the back-part, whereas "back-accent" refers to the accent of compound verbs which has, on the whole, a penultimate kernel or no kernel. In Tokyo dialect, back-accent is dominant, while some expressive words can be front-accented. In addition, there exists the so-called "Yamada's law", which asserts that if the front-part itself has no kernel, then the back-accent has a penultimate kernel, and if it has a kernel, then the back-accent has no kernel. On the other hand, in Sanyo region dialects, the accent systems of which resemble that of Tokyo dialect, front-accent -- which preserves the kernel of the front-part -- and back-accent -- which do not -- coexist in a certain proportion, and in some dialects of the Sanyo region, it may be that someday Yamada's law will become reality. Evidence from the area surrounding Tokyo certainly suggest that Tokyo dialect formerly had a Sanyo region-like accent system of compound verbs. The present paper points out the following. Firstly, the change from two-unit-accent to front-accent and the change from front-accent to back-accent are indeed the losses of accent kernel and intonational phrase of the back-part and the front-part respectively, and are indeed the unitization of two intonational phrases caused by the meaning of the compound verb. Secondly, the front-accented type which has a kernel on the inner boundary of the compound verb cannot be changed into the no-kernel type of back-accent because the kernel is no longer the kernel of the front-part verb synchronically. Thirdly, the change to no-kernel type needs to significantly precede the change to penultimate-kernel type in order for Yamada's law to hold.
著者
松倉 昂平
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.141-154, 2014-09-30

論文 Articles今日に至るまで詳細なアクセント調査がなされずその分布・体系詳細が明らかにされていなかった福井県あわら市は、ほぼ全域が明瞭なN型アクセントの分布域であることを臨地調査により確認した。南部を中心とした市内の広い範囲には従来三国式として知られてきた二型アクセントが、北部には互いに音声実質が大きく異なる3種類の三型アクセントが分布する。同市北部に位置する北潟湖周辺は、多様なN型に加え隣接する石川県加賀地方のアクセントと類似する多型アクセントも分布し、特にアクセントの地域差が著しい。本稿では、同市に確認された多様なアクセント体系の概要と分布状況を報告する。In Awara city, Fukui Prefecture, no thorough investigations of accent systems have been made, and neither their distribution nor their details have been revealed until today. The author conducted fieldwork and found out that N-pattern accent systems were distributed in almost the whole area of the city. 2-pattern accent systems, known as "Mikuni type," are widespread in the city, especially in the southern part, and three kinds of 3-pattern accent systems which differ substantially from each other in their tonal realization are distributed in the northern part, particularly around Lake Kitagata. In addition to various N-pattern systems, a multiple-pattern system similar to those in the Kaga region of Ishikawa Prefecture was found by Lake Kitagata. In this paper, the author reports the outlines and distribution of various accent systems found in the city.
著者
佐藤 章太
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.255-270, 2015-09-30

研究ノート Source Materials and Remarksベトナムは歴史的には漢字文化圏に属し、豊富な漢語由来語彙を持つが、現在は漢字表記を行わず、表音文字のアルファベットで表記している。筆者は、ベトナム語母語話者が、漢語由来語彙である漢越語と固有語である純ベトナム語をどのように区別するのかについて調査した。その結果、使用頻度の高い純ベトナム語が含まれている複合語や、ベトナム語の統語構造でも理解できる漢越語、ベトナム語の統語構造に合わせて語順が入れ替わった漢越語については、純ベトナム語と判断する傾向が見られた。また、日本語や中国語学習を通して漢字を十分に習得している話者については、日本語や中国語で対応する漢字語の知識を用いて判断している可能性も指摘した。As Vietnamese belongs to the Hanzi cultural sphere historically, it has a great number of Sino-Vietnamese words, but as of present, Vietnamese writing system is based on alphabets. The author investigated the ability of Vietnamese speakers to distinguish between Sino-Vietnamese and Vietnamese native words. The results are as follows: the compound words which include a Vietnamese native word of high frequency, the Sino-Vietnamese words compatible with Vietnamese syntactic construction, and the Sino-Vietnamese words whose constituent order is changed to Vietnamese syntactic construction are liable to be considered as Vietnamese native words. Furthermore, the Vietnamese speakers who have obtained enough knowledge of Hanzi (Chinese characters) through the study of Japanese or Chinese are likely to identify the origin of Vietnamese words more correctly than those without such knowledge.
著者
Yoshida Yutaka
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.375-394, 2013-01-31

熊本裕先生退職記念号 Festschrift for Professor Hiroshi KUMAMOTO
著者
Honkasalo Sami
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.67-77, 2011-09-30

論文 ArticlesThis paper attempts to apply the cognitive linguistic framework in explaining character formation in the oracle bone script, the oldest extant form of the Chinese script. The oracle bone script was used in Bronze Age China to write the Shāng Chinese language for divinatory purposes. It is shown that together with the previously known mechanisms of icono-pictography and the rebus principle, cognitive mechanisms such as metonymy and synecdoche played a significant role in the character formation of the oracle bone script. Furthermore, it is argued that all the aforesaid mechanisms can be explained by means of the reference point construction.本研究では、現代漢字の現存最古の祖先である甲骨文字を研究対象に、甲骨文字の成立を認知言語学の観点から考察する。甲骨文字とは、殷代の中国で主に占卜の記述に用いられていた文字体系であり、その成り立ちにおいては既知の象形と仮借というメカニズムの以外に、メトニミーとシネクドキというメカニズムが働いていたと主張する。また、以上の四つの認知的なメカニズムは参照点構造で説明することを試みる。
著者
酒井 智宏
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.277-296, 2014-09-30

この論文の目的は、メンタル・スペース理論が、表面上は認知言語学の理論の一つであるとされながら、実際には認知言語学者によって敬遠され、認知言語学の概説においても取りあげられることが少ない原因を明らかにすることである。メンタル・スペース理論の主たる研究対象は、自然言語そのものではなく、自然言語を手がかりにして作り出される認知的構築物である。この認知的構築物の構成要素であるメンタル・スペースは、定義が不明確で、明確に定義しようとすればするほど明確な定義から遠ざかるというジレンマを抱えている。また、この認知的構築物がもつとされる性質や制約は、実はわれわれの自然言語に関する理解を密輸入したものであり、独立の根拠によって正当化されたものではない。これらの点で、メンタル・スペース理論の枠組みでの研究は、言語現象をよりよく理解されている認知過程によって直観的に分かりやすいやり方で説明するという標準的な認知言語学の研究手法とは大きくかけ離れている。これが、メンタル・スペース理論が認知言語学者によって敬遠される原因にほかならない。論文 Articles
著者
Rosa Mark
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.e61-e66, 2015-09-30

In November 2013, the Tokyo Yonagunians'Association performed a local folktale, in the yonagunian language, on stage: the story of Mutu Miyara, the first Christian in the Yaeyamas, and his martyrdom at the hands of the Satsuma regime. His children were banished to outlying islands, including Yonaguni. The tale will be translated from the Yonagunian language (Dunan-munui) here.2013年11月、東京与那国郷友会が地元の民話を与那国語で演じた。これは八重山諸島のキリシタン、本宮良とその殉教であった。本宮良は焚刑となったが、子供は島流しされ、三人が与那国で暮らすことになった。本作は、与那国語からの翻訳の試みとなる。研究ノート Source Materials and Remarks
著者
松倉 昂平
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.141-154, 2014-09-30

今日に至るまで詳細なアクセント調査がなされずその分布・体系詳細が明らかにされていなかった福井県あわら市は、ほぼ全域が明瞭なN型アクセントの分布域であることを臨地調査により確認した。南部を中心とした市内の広い範囲には従来三国式として知られてきた二型アクセントが、北部には互いに音声実質が大きく異なる3種類の三型アクセントが分布する。同市北部に位置する北潟湖周辺は、多様なN型に加え隣接する石川県加賀地方のアクセントと類似する多型アクセントも分布し、特にアクセントの地域差が著しい。本稿では、同市に確認された多様なアクセント体系の概要と分布状況を報告する。
著者
三好 彰
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.36, 2015-09-30

研究ノート Source Materials and Remarks嘉永3年(西暦1850)に編纂に着手したが中断してしまったのが英和辞書『エゲレス語辞書和解』である。中断の理由は一流の英語遣いだった編纂者が次々に起こる外国との交渉事への対応に追われて英和辞書の編纂に手が回らなくなったためと従来簡単に片づけられてきた。ところが見出し語の構成に統一性が見られないし、邦訳語の質がほぼ10年後に刊行された『英和対訳袖珍辞書』と比べて見劣りする。とりわけ言語関係の邦訳からは言語学の理解の低さが目立つ。開国前の嘉永年間では英和辞書を作るだけの英語力が身について居らず、それが『エゲレス語辞書和解』中断の理由と考える。The English-Japanese Dictionary titled "Egeresugo Jisho Wage" was started to be compiled in 1850, but it was not completed. Hitherto it has been believed that the compilers, who were excellent English Scholars in Japan, were too busy in dealing with foreign issue s to complete the dictionary
著者
Cardona George
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.3-81, 2013-01-31

熊本裕先生退職記念号 Festschrift for Professor Hiroshi KUMAMOTO
著者
酒井 智宏
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.269-286, 2011-09-30

論文 Articles藤田(1988)および坂原(1992, 2002)に始まる等質化(あるいは同質化)によるトートロジー分析はトートロジー研究の標準理論とさえ言えるまでになっている。この論文では、こうした研究で用いられている等質化概念が混乱に陥っていることを指摘し、その混乱が意味の共有という幻想に根ざしていることを論じる。等質化に基づく理論では、「PであるXはXでない」と「PであってもXはXだ」が対立する場面において、「PであるX」(p)がXであると仮定しても、Xでないと仮定しても、矛盾が生じる。この見かけ上のパラドックスは、Xの意味を固定した上で「pはXなのか否か」と問うことから生じる。実際には、この対立は「Xの意味をpを含むようなものとするべきか否か」という言語的な対立であり、pの所属をめぐる事実的な対立ではない。そのように解釈すればどこにも不整合はなくなる。逆に、そのように解釈しない限り、不整合が生じる。「猫」のような基本語でさえ、話者の問でその意味が常に共有されていると考えるのは、幻想である。そしてこれこそが「言語記号の恣意性」が真に意味していることにほかならない。The homogenization-based approach to the tautology of the form X is X (even if P) contradicts itself regarding whether "X with P", evoked prior to its utterance, falls within the category of X or not. This paradox can be dissolved if we do not consider the meaning of the word X to be shared between speakers when X is X is uttered. This type of sentence does not express a factual proposition but a grammatical proposition about the very definition of X. Such freedom of definition is, we argue, what the arbitrariness of the sign is all about.
著者
Dōyama Eijirō
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.83-98, 2013-01-31

熊本裕先生退職記念号 Festschrift for Professor Hiroshi KUMAMOTO
著者
高山 林太郎
出版者
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部言語学研究室
雑誌
東京大学言語学論集 (ISSN:13458663)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.e1-e118, 2014-09-30

筆者の修士論文を修正して本稿とした。本稿の目的は、日本語の八丈方言の非短母音(長母音・二重母音)を、各地区方言間で比較して、八丈祖語における非短母音の祖体系を再構し、更に古文献『八丈実記』などの状態とも比較して、通時的変化を描くことである。上代東国方言に由来する八丈方言は、上代中央方言に由来する標準語などと、単純に同じ出発点であったとは言えず、また標準語などの辿った変化と、単純に同じような変化を辿ったとは言えないが、一旦はそのように仮定した上で、通時的変化の議論を実施してみることは、決して無益ではない。最終的に非短母音は、それほど古くない、1800年前後から各地区方言へと分岐し、多様化したと分かる。論文 Articles