著者
金井 淑子
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究はフェミニズムと倫理学を架橋する問題意識から、ジェンダー、身体、本質主義、構築主義をめぐる議論のある種の膠着状況にあるとの認識に立ち、それを突き破りうる「身体論」の位相を拓こうとするものである。身体の問題について、哲学の場面に登場しつつある臨床哲学や現象学的身体論を批判的に引き込み、その議論の土俵をつくる企てであった。フェミニズムに「フェミニニティ」を立てれば、本質主義という批判を免れがたいのだが、あえてそこに踏み込み、フェミニズムにおいて知の余白に置かれてきた身体の主題化に挑戦した。計画年度初年度は、主としてフェミニズムの側から、フェミニニティ、身体、社会構築主義/本質主義、ジェダーのキーワードに関わる課題について考察した。中間年度は、哲学・倫理学の側でキーワードとなる、身体、女性、パターナリズム、ケア、家族・家庭、親密圏についての概念的整理を通して、「弱いパターナリズムとしてのケア倫理」の提唱に及んだ。研究は、論文数編と、編著『ファミリー・トラブル近代家族/ジェンダーのゆくえ』に結実した。最終年度は、単著『異なっていられる社会を女性学/ジェンダー研究の現在』、編著『身体のアイデンティティ・トラブルセックス/ジェンダーの二元論を超えて』、共著『差異を生きるアイデンティティの境界を問い直す』『ジェンダー概念が開く視界-バックラッシュを越えて』、他、論稿数本において、本研究テーマの成果を反映した刊行につなぐことができた。なお本稿が立てた「フェミニニティと現象学的身体論批判」について、身体への現象学的アプローチの考察に十分な展開を果たせていないことを付言しておきたい。