著者
金子 俊明
出版者
筑波大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

聴覚障害生徒を対象とした聴こえと音声について考える学習において、生徒が主体的に音声ペンを活用するための授業デザインについて実践を通した検討を行った。音声ペンの利点は学習の題材とする音声を容易に録音できること、録音から音声の聴き取りまでの学習をアクティブラーニングの要素を加えて展開できること等である。実践では、はじめに生徒2人1組で音声ペンを活用して音声を録音し、ドットコードのシールとリンクさせ、さらに聴き取りのヒントも加えて実習用の音声カードを作成した。ワークシートにイラストやヒントの文を書き、音声ペンにリンクするシールを貼った上で切り抜き、ラミネートして音声カードを作る作業への生徒の取り組みは良好であった。次に、このカードを用いて音声の特徴を考える学習を展開した。録音した音声は、音声ペンの外部出力端子から外部スピーカーを通して再生し、発話者の特徴・音声の内容等について推測する学習を行った。学習後には、興味・関心、取り組みの態度、音声の区別、部分的把握、内容の推測等の評価項目について、生徒の主観的評価を調べた。その結果、音声ペンを用いて音声について考える学習に対する生徒の評価は良好であった。また、音声ペンを活用した主体的な学習と従来のサンプル音を用いた学習とで、客観テストに対する聴取正答率を比較した。その結果、5%水準で有意差が認められ、音声ペンを用いた学習には効果が見込めることがわかった。生徒の補聴の実態には個人差が大きいが、音声ペンを用いたアクティブラーニングのデザインを検討することで、聴こえと音声について考える学習をさらに推進できる可能性があることが示唆された。