- 著者
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金子 啓祐
- 出版者
- 愛媛大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
Ca^<2+>/calmodulin依存性プロテインキナーゼ(CaMK)はすべての真核生物に存在し、動物では神経機能の調節、植物においては微生物との共生の制御にかかる。一方で、真菌類におけるCaMKの機能はほとんどわかっていない。これまで我々は担子菌Coprinopsis cinereaの新規CaMK遺伝子CoPK12を同定した^<(1)>。CoPK12は担子菌キノコ特有の活性化機構を有しており、その活性がC. cinereaの菌糸成長と関わることが示唆された。当該年度では、CoPK12が担子菌キノコ特有の細胞内局在を示すCaMKであることを明らかにした。菌糸細胞を細胞分画したところ、CoPK12は菌糸細胞の細胞膜に局在していた。一方で、内在性プロテアーゼによって生じる46kDaの分解断片は細胞質に局在していた。in silico解析によりCoPK12はN-ミリストイル化を介した脂質修飾を受けることが推測された。そこで、放射性同位体を用いたin vitroN-ミリストイル化アッセイによりCoPK12のN-ミリストイル化の可能性を調べたところ、CoPK12は有意にN-ミリストイル化を受けることが明らかになった。酵母細胞に発現させたCoPK12は細胞膜に局在したが、N-ミリストイル化部位を変異させたところ、細胞内局在が細胞質に変化した。このことから、CoPK12はN-ミリストイル化を介して細胞膜に局在するCaMKであることが示唆された。CaMKの多くは細胞質に局在することが知られており、N-ミリストイル化を受けるCaMKは前例がない。さまざまな生物種のCaMKのアミノ酸配列を用いてアライメント解析を行ったところ、担子菌キノコのCaMKが特異的にN-ミリストイル化を受けることが示唆された。一方で、担子菌キノコのCaMK間でN-ミリストイル化周辺のアミノ酸配列がほとんど相同ではなかった。このことから、担子菌キノコのCaMKの膜局在は、それぞれの遺伝子が独自に進化したことによるものだと考えられた。これらのことから、CoPK12の膜局在化は担子菌キノコ特有の現象であることが強く示唆された。(1)Kaneko K. et al. Siochim. Biophys. Acta 1790 (2009) 71-79.