著者
金山 幸司
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

脱毛症に対する先進医療として、細胞を用いた毛髪再生医療が注目されている。毛包由来の毛乳頭細胞を用いた基礎研究が多く行われる中、未だにヒト細胞から構成される毛包の新生は実現していない。近年、毛包を構成する真皮毛根鞘に比較的未分化な細胞が多く存在することが明らかになってきた。この真皮毛根鞘に存在する間葉系細胞である真皮毛根鞘細胞に着目し、臨床応用可能な毛髪再生治療を開発することが本研究の目的である。本年度は、まず臨床検体の採取と毛包由来の毛乳頭細胞および真皮毛根鞘細胞の初代培養を行った。患者からの提供検体に付属する毛包を採取し、毛乳頭と毛根鞘をそれぞれ単離した。大気酸素下または低酸素下で細胞培養を行ったところ、いずれの場合も細胞の増幅が可能であったが、特に真皮毛根鞘細胞は低酸素環境下で増殖活性が増大した。細胞移植による治療には細胞の増幅が不可欠であるが、毛乳頭細胞よりも増殖活性の低い真皮毛根鞘細胞の増幅を得るためには低酸素環境下での培養が有効であることを確認できた。次に増幅後の培養細胞を用いて遺伝子発現解析を行った。細胞内に発現している多分化能関連遺伝子のmRNA量をRT-PCRで解析したところ、真皮毛根鞘細胞ではSOX2の発現が毛乳頭細胞と比較して40倍以上高値を示した。真皮毛根鞘細胞は毛包再構築の主体となる毛乳頭細胞とは異なる特徴をもつこと、および毛包新生を実現するための移植細胞ツールとして高い潜在性を有することが確認できた。