著者
金谷 繁明
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

大脳皮質抑制性神経細胞は主に腹側終脳の基底核原基にて誕生し、接線方向移動(tangential migration)をして大脳皮質に到達する。基底核原基のうち、内側基底核原基(MGE)、尾側基底核原基(CGE)が大脳皮質抑制性神経細胞の主なソースであり、主にMGE細胞はLhx6、CGE細胞はCOUP-TFIIを発現する。近年、マウスモデルを用いた研究により、間脳の一部である視索前野(POa)からも抑制性神経細胞が由来することが報告されている(Gelman et al., 2009)。POaは遺伝子発現様式により背側POaと腹側POaに分けられるが、腹側POaに発現するDbx1転写因子に由来する抑制性神経細胞が、5層に由来する多くの抑制性神経細胞がDbx1由来であることが示され、それらは胎生11日目付近で産生されることが示された(Gelman et al., 2011)。しかしPOaに由来する大脳皮質抑制性神経細胞が移動中にどのような分子を発現し、どのような移動様式や移動メカニズムを取るかはほとんど知られていない。我々はMGEとCGEの両方のマーカーである(Lhx6、COUP-TFII)を発現する細胞群(M-CGE細胞)がPOaに由来していることを突き止めたことから、POa内でのM-CGE細胞の由来を詳細に解析した。局所遺伝子導入法にて腹側POaにのみ遺伝子導入をして腹側POa由来細胞を解析したところ、この領域から由来する細胞のほとんどがLhx6/COUP-TFII二重陽性であることを突き止めた。さらに背側POa由来の細胞ではLhx6/COUP-TFII二重陽性の割合が少ないことから、腹側POaがM-CGE細胞の主なソースと考えられた。