著者
鈴木 シルヴィ
出版者
玉川大学観光学部
雑誌
玉川大学観光学部紀要 = The journal of Tamagawa University College of Tourism and Hospitality (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
no.2, pp.69-82, 2014

フランス語の話し言葉で多用されるmon vieux(直訳:「わが老人よ」)のような名詞形呼称は日本語に存在しないため,それに対応することばを見つけることは難しい。フランス語の名詞形呼称のニュアンスを日本語で正確に伝えるためには,まずそれらがどのような状況で使われているのかを明確にする必要があるだろう。 本稿では,発話の状況を考慮する前に,まずフランス語の名詞形呼称の全体像を把握することが先決であると考え,そのためにフランス語の名詞形呼称をコンテクスト抜きで分類することを優先課題にした。名詞形呼称の体系的な分類を手がけたKerbrat-Orecchioni, C.(2010)の成果を参考にしながら,よりいっそう網羅的な分類を目指した。 名詞形呼称には話し相手を直接呼びかける呼格的用法(vocative use)と他称詞の指示対象を指す三人称的用法(non-vocative use)があるが,本稿では前者に焦点を当て,呼格的用法におけるフランス語の名詞形呼称を整理し,分類した。名詞形呼称がどのような方法で対話者を同定するかによって,「固有名詞」,「ラベル」,「敬称」,「地位名称」,「関係語」,「愛称語」の6つのカテゴリーに分類することができた。その結果,ほぼどのカテゴリーにも所有形容詞一人称単数mon/ma/mesが登場することが判明し,さらに呼びかけ行為において所有形容詞が敬意,尊敬,親しみ,愛情など,多様な意味機能を果たしていることが明らかになった。