著者
野村 尚司
出版者
玉川大学観光学部
雑誌
玉川大学観光学部紀要 = The journal of Tamagawa University College of Tourism and Hospitality (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-12, 2014

本稿は,旅行商品取引のグローバル化進展に伴う日本の旅行業がおかれた状況を踏まえ,今後のあるべき姿について考察するための準備段階として,これまで旅行業法で規定されてきた公的な旅行業ライセンス制度や旅行業者破綻に対する弁済制度の廃止といった大胆な政策改革を推進する豪州の事例を紹介し,その考察から得た含意を特定することを目的とする。 2012年12月に,豪州連邦政府・各州政府は消費者を統括する大臣会議を行い,旅行業法の見直しやTravel Compensation Fund(以下,TCF)廃止などを柱としたTravel Industry Transition Plan(以下,TITP)を推進することで合意した。豪州政府はその合意に関するコミュニケで,「旅行業のライセンス制度を維持することはもはや困難であり,品質保証としての認証制度が国の手を離れる流れに変化させざるを得なかった」との理由を述べている。豪州旅行業協会(以下,AFTA)ではこの政府決定を歓迎するコメントを発表。同協会内でワーキンググループを発足させ,TITPの趣旨に沿った新たな業界主導の旅行業認証制度や消費者保護策の策定作業に入ったのである。これは,公的な旅行業ライセンス廃止といった,極めて大きな変革であり,2012年年末の決定から約3年を掛け2015年にはTITPが完了することとなる。 そもそもグローバル展開を行うオンライン・トラベル・エージェンシー(以下,OTA)はインターネットという情報通信技術を最大限に活用することでその強みを発揮させる事業モデルである。それは,容易に世界市場へアクセスできる技術力のみならず,各国で定めた法制の枠組みを「すり抜ける」力も具有している。また地球上のどこかに顧客が存在し自社商品の競争力があると見るや即市場参入し,収益が上がらない場合は即撤退を決断する身軽さも有している。OTAの事業モデルが世界で市場シェアを増大させるにつれ,「国」の枠組みで構築されてきた各国の旅行業法制は次第に綻びが出てくる可能性があり,本稿で取り上げた豪州の事例と同様わが国においてもその見直しは避けられないのではないだろうか。
著者
鈴木 シルヴィ
出版者
玉川大学観光学部
雑誌
玉川大学観光学部紀要 = The journal of Tamagawa University College of Tourism and Hospitality (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
no.2, pp.69-82, 2014

フランス語の話し言葉で多用されるmon vieux(直訳:「わが老人よ」)のような名詞形呼称は日本語に存在しないため,それに対応することばを見つけることは難しい。フランス語の名詞形呼称のニュアンスを日本語で正確に伝えるためには,まずそれらがどのような状況で使われているのかを明確にする必要があるだろう。 本稿では,発話の状況を考慮する前に,まずフランス語の名詞形呼称の全体像を把握することが先決であると考え,そのためにフランス語の名詞形呼称をコンテクスト抜きで分類することを優先課題にした。名詞形呼称の体系的な分類を手がけたKerbrat-Orecchioni, C.(2010)の成果を参考にしながら,よりいっそう網羅的な分類を目指した。 名詞形呼称には話し相手を直接呼びかける呼格的用法(vocative use)と他称詞の指示対象を指す三人称的用法(non-vocative use)があるが,本稿では前者に焦点を当て,呼格的用法におけるフランス語の名詞形呼称を整理し,分類した。名詞形呼称がどのような方法で対話者を同定するかによって,「固有名詞」,「ラベル」,「敬称」,「地位名称」,「関係語」,「愛称語」の6つのカテゴリーに分類することができた。その結果,ほぼどのカテゴリーにも所有形容詞一人称単数mon/ma/mesが登場することが判明し,さらに呼びかけ行為において所有形容詞が敬意,尊敬,親しみ,愛情など,多様な意味機能を果たしていることが明らかになった。