著者
曽山 毅
雑誌
玉川大学観光学部紀要 (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
no.7, pp.23-35, 2020-03-30

修学旅行は,定説では明治中期に東京師範学校によって創出されたとされる。初期の修学旅行は滞在を含む教育旅行であり,行軍と呼ばれる軍事スタイルの行進と博物観察などを組み合わせたものであった。その後,全国の師範学校と中学校がこのタイプの修学旅行を採用した。やがて,行軍は鉄道旅行に置き換えられ,軍事訓練は修学旅行から分離した。その結果,修学旅行は見学を主体とする観光形態となり,大正および昭和の期間にわたって日本の学校で継続的に実施されるようになる。このように修学旅行が広範に支持された主な要因は,修学旅行が幅広い人々に観光を体験する機会を提供したことであった。
著者
野村 尚司
雑誌
玉川大学観光学部紀要 (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.2, pp.1-12, 2015-03-31

本稿は,旅行商品取引のグローバル化進展に伴う日本の旅行業がおかれた状況を踏まえ,今後のあるべき姿について考察するための準備段階として,これまで旅行業法で規定されてきた公的な旅行業ライセンス制度や旅行業者破綻に対する弁済制度の廃止といった大胆な政策改革を推進する豪州の事例を紹介し,その考察から得た含意を特定することを目的とする。 2012年12月に,豪州連邦政府・各州政府は消費者を統括する大臣会議を行い,旅行業法の見直しやTravel Compensation Fund(以下,TCF)廃止などを柱としたTravel Industry Transition Plan(以下,TITP)を推進することで合意した。豪州政府はその合意に関するコミュニケで,「旅行業のライセンス制度を維持することはもはや困難であり,品質保証としての認証制度が国の手を離れる流れに変化させざるを得なかった」との理由を述べている。豪州旅行業協会(以下,AFTA)ではこの政府決定を歓迎するコメントを発表。同協会内でワーキンググループを発足させ,TITPの趣旨に沿った新たな業界主導の旅行業認証制度や消費者保護策の策定作業に入ったのである。これは,公的な旅行業ライセンス廃止といった,極めて大きな変革であり,2012年年末の決定から約3年を掛け2015年にはTITPが完了することとなる。 そもそもグローバル展開を行うオンライン・トラベル・エージェンシー(以下,OTA)はインターネットという情報通信技術を最大限に活用することでその強みを発揮させる事業モデルである。それは,容易に世界市場へアクセスできる技術力のみならず,各国で定めた法制の枠組みを「すり抜ける」力も具有している。また地球上のどこかに顧客が存在し自社商品の競争力があると見るや即市場参入し,収益が上がらない場合は即撤退を決断する身軽さも有している。OTAの事業モデルが世界で市場シェアを増大させるにつれ,「国」の枠組みで構築されてきた各国の旅行業法制は次第に綻びが出てくる可能性があり,本稿で取り上げた豪州の事例と同様わが国においてもその見直しは避けられないのではないだろうか。
著者
玉木 栄一
雑誌
玉川大学観光学部紀要 (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
vol.2014, no.2, pp.13-35, 2015-03-31

伊東市は,富士箱根伊豆国立公園の指定区域にあり,温暖な気候,豊かな自然と美しい景観に恵まれ,また古くから全国に知られた温泉地でもある。さらに最大の観光市場である首都圏に近く,交通の利便も良い。まさに観光地として必要な条件を全て備えている。 第二次大戦後は,交通の利便性が増して,観光開発も進み,大幅に観光客数を伸ばしていった。しかしバブル崩壊後の長期的な経済不況に入ると,観光需要低下に対しての効果的な対応策が打てず,他の観光地と同様に,観光客が年々減少していった。 こうした近年の停滞から脱却し,かつての輝きを取り戻すために,この論文は,伊東市の観光開発・観光振興戦略の方向性を提示することを目的として進められた。まず伊東市の概要と歴史を概観し,伊東市は,江戸時代から続く小さな村が合併し出来た町であり,古くから観光が主な産業であったことを確認した。伊東市観光の歴史を考察すると,温泉地としての発展は,明治時代の鉄道と道路網の整備から始まり,昭和13年(1938年)の鉄道・伊東線の開通で大きく発展したことが分かった。戦後では,昭和36年(1961年)の伊豆急線の開通で,伊東市南部の別荘地の開発が進み,1970年代から,リゾート型温泉保養地として大きく発展していった。 次に伊東市の観光資源,観光の動向や市の観光政策を調べ,SWOT分析を行った。その結果として,伊東市観光の課題とその対応としての戦略の方向性が明らかとなった。その戦略の方向性は,伊東市総合計画書の中にある方策と一致したもので,次の4つが提示された。 1)積極的攻勢戦略:外国人観光客の誘客推進 2)差別化戦略:首都圏での地域資源を活用した観光マーケティング活動の強化 3)段階的施策戦略:外国人観光客の受入体制の整備 4)専守防衛戦略: 外国人観光客の誘致で,市街地と観光地の活性化を図ることと,自然災害の危機管理体制の強化 そしてこれらの戦略の方向性は,伊東市街の温泉地と伊豆高原地域の観光開発・観光振興戦略に取り入れられ,これからの伊東市観光の観光開発・振興戦略として提案された。 この論文では,伊東市の観光開発歴史の考察と観光の現状分析から,今後の取り組み課題を把握し,戦略の方向性を示しているが,ここで提示された戦略の実施には,伊東市観光のステークホルダーとの議論を重ね,詳細の施策を実施計画に落とし込んでいく必要がある。
著者
野村 尚司
出版者
玉川大学観光学部
雑誌
玉川大学観光学部紀要 = The journal of Tamagawa University College of Tourism and Hospitality (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
no.2, pp.1-12, 2014

本稿は,旅行商品取引のグローバル化進展に伴う日本の旅行業がおかれた状況を踏まえ,今後のあるべき姿について考察するための準備段階として,これまで旅行業法で規定されてきた公的な旅行業ライセンス制度や旅行業者破綻に対する弁済制度の廃止といった大胆な政策改革を推進する豪州の事例を紹介し,その考察から得た含意を特定することを目的とする。 2012年12月に,豪州連邦政府・各州政府は消費者を統括する大臣会議を行い,旅行業法の見直しやTravel Compensation Fund(以下,TCF)廃止などを柱としたTravel Industry Transition Plan(以下,TITP)を推進することで合意した。豪州政府はその合意に関するコミュニケで,「旅行業のライセンス制度を維持することはもはや困難であり,品質保証としての認証制度が国の手を離れる流れに変化させざるを得なかった」との理由を述べている。豪州旅行業協会(以下,AFTA)ではこの政府決定を歓迎するコメントを発表。同協会内でワーキンググループを発足させ,TITPの趣旨に沿った新たな業界主導の旅行業認証制度や消費者保護策の策定作業に入ったのである。これは,公的な旅行業ライセンス廃止といった,極めて大きな変革であり,2012年年末の決定から約3年を掛け2015年にはTITPが完了することとなる。 そもそもグローバル展開を行うオンライン・トラベル・エージェンシー(以下,OTA)はインターネットという情報通信技術を最大限に活用することでその強みを発揮させる事業モデルである。それは,容易に世界市場へアクセスできる技術力のみならず,各国で定めた法制の枠組みを「すり抜ける」力も具有している。また地球上のどこかに顧客が存在し自社商品の競争力があると見るや即市場参入し,収益が上がらない場合は即撤退を決断する身軽さも有している。OTAの事業モデルが世界で市場シェアを増大させるにつれ,「国」の枠組みで構築されてきた各国の旅行業法制は次第に綻びが出てくる可能性があり,本稿で取り上げた豪州の事例と同様わが国においてもその見直しは避けられないのではないだろうか。
著者
鈴木 シルヴィ
出版者
玉川大学観光学部
雑誌
玉川大学観光学部紀要 = The journal of Tamagawa University College of Tourism and Hospitality (ISSN:21883564)
巻号頁・発行日
no.2, pp.69-82, 2014

フランス語の話し言葉で多用されるmon vieux(直訳:「わが老人よ」)のような名詞形呼称は日本語に存在しないため,それに対応することばを見つけることは難しい。フランス語の名詞形呼称のニュアンスを日本語で正確に伝えるためには,まずそれらがどのような状況で使われているのかを明確にする必要があるだろう。 本稿では,発話の状況を考慮する前に,まずフランス語の名詞形呼称の全体像を把握することが先決であると考え,そのためにフランス語の名詞形呼称をコンテクスト抜きで分類することを優先課題にした。名詞形呼称の体系的な分類を手がけたKerbrat-Orecchioni, C.(2010)の成果を参考にしながら,よりいっそう網羅的な分類を目指した。 名詞形呼称には話し相手を直接呼びかける呼格的用法(vocative use)と他称詞の指示対象を指す三人称的用法(non-vocative use)があるが,本稿では前者に焦点を当て,呼格的用法におけるフランス語の名詞形呼称を整理し,分類した。名詞形呼称がどのような方法で対話者を同定するかによって,「固有名詞」,「ラベル」,「敬称」,「地位名称」,「関係語」,「愛称語」の6つのカテゴリーに分類することができた。その結果,ほぼどのカテゴリーにも所有形容詞一人称単数mon/ma/mesが登場することが判明し,さらに呼びかけ行為において所有形容詞が敬意,尊敬,親しみ,愛情など,多様な意味機能を果たしていることが明らかになった。