著者
鈴木 南音
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.19-36, 2022 (Released:2023-06-30)
参考文献数
22

本研究は,描かれた絵の見え方を形作るための相互行為上のプラクティスを,会話分析の方法を用いて解明したものである.その調査先として,舞台芸術の制作場面を選んだ.そこでは,これから作ろうとしている舞台美術や,舞台上に投影するアニメーションに関するアイデアを,絵に描いて見せるという活動が頻繁になされており,描かれた絵をどのように見るのか,また,どのように絵の見方を聞き手に示すのかということが,参与者たちにとって重要な課題であった.そこで本研究では,分析の焦点を,描かれた対象同士の関係性の見え方が活動の中でどのように形作られているのかという点に絞り,E. Schegloff(1980=2018)の「予備のための予備」の議論を導きの糸としながら,分析を行なった. 分析の結果として,相互行為参与者たちが,発話・身体・道具の配置等の組み合わせのなかで描くことを予示し,継続する行為を予備的行為として構造化することによって,描かれた対象同士の見え方が,予備/本題という関係性をもつものとして形作られるということが解明された.また,そのようなプラクティスが用いられることで,絵が,前景や後景といった前後関係をもつ複数の層に階層化されることを示し,さらに,絵の見え方だけではなく,舞台芸術の作り手たちがこれから実際に舞台を組み立てる順序が構造化されるということが明らかになった.