著者
鈴木 弥香子
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.55-67, 2014 (Released:2020-03-09)

現在、グローバリゼーションの進展によって様々な変容が社会に対して迫られ、多方面で弊害が生じており、それに対してどう対応するかという新たな社会構想を描く必要性が増しているが、その試みはこれまで進展してこなかった。本稿では、新たな構想としてコスモポリタニズムに着目し、それがアクチュアリティを持つ考えであると同時に、実践するにあたってはある困難性を有していることを明らかにする。コスモポリタニズムは、近年グローバリゼーションの進展に呼応するようにヨーロッパ圏を中心として盛んに議論されている一方で、日本においてはその検討が不十分であるのが現状である。そこで第一に、コスモポリタニズムの中でも政治的な変革に関連する議論を、「規範的」なものと「記述的」なものに区別し、整理する中で、そのアクチュアリティを明らかにする。第二に、同概念をより具体的な実践として考えるため、政治的な変革に関わるコスモポリタニズムの議論の多くがコスモポリタンな実践の条件となるグローバルな連帯の存在を自明視、過大評価しているという問題について検討を行う。その中で、連帯を「弱い連帯」と「強い連帯」に分けて考える必要性を提起し、グローバルなレベルでは「弱い連帯」は見られるものの「強い連帯」の構築は困難であることを指摘し、コスモポリタニズムの実践における困難性を明らかにしながらも、EUにおける金融取引税という事例から新たな可能性についても素描する。
著者
鈴木 弥香子
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.32-44, 2019 (Released:2020-03-09)

本稿は、ウルリッヒ・ベックのコスモポリタン理論を「新しいコスモポリタニズム」と関連させながら論じることで、その特徴と意義、問題性を明らかにし、批判的継承への方途を探る。「新しいコスモポリタニズム」の議論では、コスモポリタニズムが現代的文脈に照らし合わされ、批判的/反省的に再構成されてきた。そこで重視されているのは(1)ローカル/コスモポリタン二分法批判、(2)アクチュアリティの強調、(3)ユーロセントリズム批判の三つの観点である。ベックのコスモポリタン理論にもこれらの観点は色濃く反映されており、第一の観点については「コスモポリタン化」概念の提示、第二の観点については「現実(real)」というキーワードの強調がそれぞれ対応している。第三の観点、ユーロセントリズム批判に関しては、ベックはユーロセントリズム批判を展開する側であると同時に、ユーロセントリックだと批判される側にもなっていると言える。例えば、バンブラはベックのコスモポリタニズムがユーロセントリックだと批判し、その理由として帝国主義と植民地支配の歴史の軽視を挙げるが、これはベック理論における一つの問題だと言える。また、もう一つの問題と考えられるのが、ベックは「コスモポリタンな現実」を過大評価することで規範的/倫理的な問いを回避する傾向にあることである。こうした問題に対応するためには、ポストコロニアルな思考を取り入れ、差異や歴史的な文脈に注意深く目を向けながら、他者とどう向き合うべきかという問いについて取り組んでいく必要がある。