著者
鈴木 操
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.325-329, 2007 (Released:2007-05-14)
参考文献数
5

ヒトゲノムの解読が終了し,遺伝子の存在は塩基配列から予測できるようになった.しかしながら,遺伝子の機能を塩基配列のみから予測することは困難である.そこで,遺伝子の機能を個体レベルで解析する技術として,マウス個体へ遺伝子を導入する遺伝子改変マウス作製技術が有効である.遺伝子改変マウスは,その作製方法によって,トランスジェニックマウス(外来遺伝子導入マウス,以下,Tgマウス)と遺伝子ターゲッティングマウスに分類される.Tgマウスは目的のタンパク質をコードする遺伝子,またはそのcDNAを含む外来遺伝子をマウスの受精卵に注入して作製され,個体での外来遺伝子の機能解析を目的としている.一方,遺伝子ターゲッティングマウスは,遺伝子ターゲッティングにより胚性幹細胞を用いたキメラマウス作製により作製されるマウスで,特定の内在性遺伝子を外来性のDNA断片で置換することにより,もとの遺伝子の機能を欠失または変異させる.遺伝子の機能を欠失したマウスをノックアウトマウス(以下,KOマウス)という.本稿では,Tgマウスの作製技術について解説する.Tgマウスの作製は,マウスには本来存在していない外来遺伝子の導入により発現を付与する,機能付与型である.現在,Tgマウス作製は,前核期受精卵への外来遺伝子のマイクロインジェクションによる方法が最も一般的に使用されている.なお,Tgマウス作製技術には,受精卵の体外培養,受精卵の卵管内移植および体外受精などの発生工学的基盤技術が不可欠である.Tgマウス作製技術は,現在,遺伝子の機能解析のみならず,疾患モデル動物として病態解析や治療薬開発などに応用され,生物学・医学・薬学を含む多くの分野で最も基礎的,かつ重要不可欠な技術となっており,今後も発展し続けるものと期待される.
著者
鈴木 操
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.320-324, 2007 (Released:2007-05-14)

遺伝子改変マウス(トランスジェニックマウス,ノックアウトマウス)の作製および使用は,遺伝子組換え実験(注1)の動物使用実験(動物作成実験)に該当するので,「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(注2)(以下,カルタヘナ法)が適用される.このカルタヘナ法は「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書」(注3)(以下,カルタヘナ議定書)の的確かつ円滑な実施を確保することを目的としている.すなわち,遺伝子改変マウスの作製および使用は,生物多様性への悪影響を防止するために,環境中への拡散を防止しつつ行われなければならない.具体的なルールは「研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令」(注4)(以下,研究開発二種省令)などに規定されている.遺伝子組換え実験の手続きは,実験責任者が,執るべき拡散防止措置があらかじめ定められているかどうかを確認の上,実験計画書(機関内実験)または大臣確認申請書(大臣確認実験)を作成し,所属機関内の遺伝子組換え実験安全委員会等に申請して,承認または確認を得なければならない.カルタヘナ法に違反した場合には,最も重いもので,1年以内の懲役もしくは100万円以内の罰金またはこれの併科とされているので,実験者は,事前にカルタヘナ法を熟知して実験を行わなければならない. 注1)遺伝子組換え実験:遺伝子組換え技術により得られた核酸またはその複製物(組換え核酸)を有する遺伝子組換え生物等の使用等をいう. 注2)遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 注3)生物の多様性に関する条約のバイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書 注4)研究開発等に係る遺伝子組換え生物等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令 注1,2,3,4)の詳細は,文部科学省ホームページを参照. http://www.lifescience-mext.jp/bioethics/anzen.html#kumikae