著者
鈴木 正寿
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

哺乳動物の脳には形態的・機能的雌雄差が存在する。本研究は、周生期のラットの脳の性分化に直接重要な役割を果たす性分化誘導因子として考えられているグラニュリンに着目し、そのニューロンに対する作用を分子生物学的及び細胞生物学的に解明することを目的とした。本年度では、イン・ビボにおけるグラニュリンの視床下部ニューロンの構築に対する作用の検討として、抗グラニュリン前駆体ウサギ血清を用いて、脳内におけるグラニュリン発現分布を免疫組織化学的に検討した。その結果、脳全体において広範な発現が確認されたものの、特に大脳皮質、海馬、視床下部脳室周囲核や弓状核、中脳黒質などでの強い発現が観察された。さらにこれらの領域においてgrn前駆体蛋白を発現する細胞は神経細胞であった。以上の結果は、神経細胞において産生されるgrnが、オートクライン・パラクライン的に神経細胞やグリア細胞に作用し、細胞増殖・分化を制御している可能性を示唆するものであった。さらにマウスグラニュリン遺伝子のゲノム配列を用いて、プロモーターでの転写調節機能の解析やノックアウトマウスの作成を現在進行している。特にノックアウトマウス作成については、現在グラニュリン遺伝子の欠損した胚性幹(ES)細胞の選択が終了し、キメラマウスの作成の段階である。また脳の性分化の誘導される新生期において、エストロジェンを処置し、その後経時的に視床下部を採取し、新生ラット視床下部におけるエストロジェン、アンドロジェンおよびアロマターゼ遺伝子の発現を検討した。エストロジェン投与によりERα遺伝子発現は減少したが、ERβ、AR、AROM遺伝子の発現は増加した。これらの遺伝子発現の雌雄差、および性ステロイドに依存した発現制御は、ラットの脳の性分化において重要な役割を果たすものと考えられた。