著者
鈴木 美佐子 藁谷 敏晴
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.53-58, 1996-03-31 (Released:2009-07-23)
参考文献数
7

柏端氏は論文「行為と道具」において, 道具を表す副詞句を含む行為文の興味深い分析を展開している。その分析は, デイヴィドソン的な論理分析を基本的には保持する仕方で, デイヴィドソン的な分析によっては扱うことのできない行為文に論理形式を与えるものである。しかしわれわれは, デイヴィドソン型分析それ自体に関して基本的な疑義を感じることから, 本論を柏端氏への反論として発表する次第である。われわれの感じている疑義及びそれに関する考察の結果を端的に言うなら, 主に以下の三つの論点においてデイヴィドソン型の分析が妥当ではないということである。すなわち, デイヴィドソン型分析は (1) 因果関係を含む推論を十分に明らかにしないまま遂行され, なおかつ (2) 出来事存在論に立脚しているが, それは不自然であり, (3) 行為の個別化について十分な考察が行われていない, ということである。われわれの主張は, 行為に関する推論に関して, 出来事存在論を仮定する必要はなく, それらは単に因果関係を含んだ三段論法として処理できる, ということである。