著者
山本 彩 鈴木 育美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.109-123, 2019-02-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
17
被引用文献数
1

2017年12月に閣議決定された「再犯防止推進計画」で刑務所内において発達特性に応じた効果的な指導が必要であることが述べられた。一方現行制度下では,ほとんどの刑務所が発達特性を有する人の実態把握すら難しい状況にある。特に女子刑務所は過剰・高率収容状態に加え,一般社会のペース以上に収容者の高齢化が進んでいる。また収容者の多くが覚せい剤後遺症や性虐待・性被害の被害体験からくる反応,摂食障害など極めて処遇困難な症状を有しているため,発達特性に応じた効果的な指導を行うのは難しい状況にある。筆者らは,法務省がこうした状況を鑑み2014年度から行った「女子施設地域支援モデル事業(以下,モデル事業)」を用いて,女子刑務所において自閉スペクトラム症(以下,ASD)が疑われた人へ,ASD特性を加味した支援をおこなった。本報告では,その中の2事例を報告するとともに,「モデル事業」を用いてどのように継ぎ目のない(シームレスな)支援体制を整備したかを紹介した。最後に2事例を振り返り,2事例に共通して見えたことや当該支援の限界について考察した。