著者
友田 明美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.719-729, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
31

小児期のマルトリートメント(不適切な養育)経験は高頻度に精神疾患の発症を招き, 脳の器質的・機能的な変化を伴うことがわかってきた。たとえば, 暴言虐待による聴覚野容積の拡大や両親のDV目撃による視覚野容積の縮小をもたらし, うつ病や PTSD, 認知機能の低下を引き起こす。他の被虐待経験によるヒトの脳に与える影響も明らかになってきた。単独の被虐待経験は一次的に感覚野(視覚野や聴覚野など)の障害を引き起こすが, より多くのタイプの虐待を一度に受けるともっと古い皮質である大脳辺縁系(海馬や扁桃体など)に障害を引き起こす。さらに反応性アタッチメント障害を持つ青少年たちには線条体におけるドパミン機能異常が明らかになってきた。不適切な養育体験と子どもの依存リスクが脳科学的にも密接に関連している可能性が示唆される。
著者
田中 究
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.705-718, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
73

近代になって子ども虐待は民間福祉機関や個人によって気付かれ, 子どもの保護が始められ, それを公的機関, 司法が支援してきた。しかし, そのことで市民社会からは見えにくくなっていた。Kempら(1962)の「殴打された子の症候群(Battered Child Syndrome)」の報告は, 子ども虐待対応の枠組みを, 福祉モデルから医療モデルに変化させた。こうして, 子ども虐待は再発見されたのである。虐待された子どもの現す特異な行動は, 心的トラウマの症状として診断され, 社会病理ばかりではなく養育者の精神病理が虐待の要因として捉えられるようになった。その上で, 子どもの心的トラウマを評価し, 治療することの知見や研究が積み重ねられ, 治療技法が考案されている。さらに, 基本的なアタッチメントへの理解がすすみ, アタッチメントの再構築についても議論されるようになった。こうした治療的な関与には医療だけではなく, 福祉, 保健, 教育, 司法がそれぞれ相補的な役割を果たし, 協働していくことが一層重要である。
著者
亀岡 智美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.738-747, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
16
被引用文献数
1

近年, 虐待された子どもたちを, トラウマの視点から評価しケアすることの重要性が, 国際的にも強調されている。Trauma-focused cognitive behavioral therapyは, 被虐待児のトラウマへの第一選択治療として推奨され, 国際的に最も効果が検証されている認知行動療法である。わが国における実施可能性も検討され, 報告されている。本稿では, わが国での実施症例を提示することによって, プログラムの概要を紹介するとともに, 被虐待児ケアにおけるPTSD評価とトラウマ治療の重要性について考察した。
著者
黒江 美穂子 宇佐美 政英 渡部 京太 齊藤 万比古
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.458-470, 2016 (Released:2019-08-21)
参考文献数
15

10歳で神経性無食欲症を発症した女児の,長期入院治療を経験したのでここに報告する。女児の強固な拒食病理や完璧主義的思考により,経過は一進一退であったが,徐々に心身の健康と年齢相応の自立志向性を獲得していった。女児の症状形成過程および入院治療が長期化した背景にある精神病理を考察し,治療においては身体管理や生命の保護のみならず,治療スタッフの関わりによる基本的信頼感の構築,さらに同年代仲間集団との交流といった複合的な機能を担った児童思春期専門病棟の意義について述べた。また家族療法の導入により,治療者が多角的,重層的な視点から症例を捉えられたこと,両親が親としての支持機能を回復し,特に母親が活き活きと情緒的応答性を取り戻したことが,回復の鍵となった。
著者
早田 聡宏 東 晃子 中村 みゆき 中西 大介 西田 寿美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.808-828, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
25

学習障害(LD)は学力習得の困難以外に, 学校および日常生活における自己評価の低下, 自信喪失を生じ, 不登校や社会不適応へつながる可能性も考えられる。本症例では, 小学1年の初診時, 注意欠如・多動性障害の診断とともにLDの存在が疑われた児が, 交通事故による治療中断期間を経て, 思春期の年齢において学校不適応をきたした。そして, 母子密着もあり不登校が約3年間と長期化したことを契機に当園への入院治療を導入した。本児への18カ月間の入院治療の中で, LD診断確定とともに徐々に社会性を獲得し, 自己評価の向上もみられた。さらに, 長期不登校が改善し高校進学へとつながり, その後も順調に社会生活を送れている。入院当初の本児および両親の不安や葛藤を傾聴しながら関係を構築していくことが重要であり, 信頼関係を築けた結果, 治療の方針も定まったと考えられた。通院や通所による支援では治療が限定されるが, スタッフとの信頼関係の下, あすなろ学園の入院プログラムに沿った学習および生活の両面を把握しながらの多職種の連携によって, より効果的な治療および家族支援ができたと考えられた。