著者
鈴木 裕法
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会雑誌 (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.61-79, 2005-05-25 (Released:2017-12-20)
参考文献数
52

本研究は中華人民共和国西部の新彊ウイグル自治区ウルムチ市に居住するウイグル族の歯冠形質の特徴ならびに他民族集団との人類学的位置関係を明確にすることを目的とした.研究資料として中華人民共和国新彊ウイグル自治区ウルムチ市の民族中学校に通学する16歳〜19歳の男女各80名より採取された上下顎石膏歯列模型を用いた.研究方法はArizona State University Dental Plaque Systemを基準として,歯冠19形質の出現頻度と発達程度を調査し,モンゴロイド9民族集団,コーカソイド2民族集団ならびにネグロイドとの比較を行い,以下の結論を得た.1.観察したウイグル族の歯冠19形質のなかで出現率の高いものは,Canine distal accessory ridge (UC), Premolar lingual cusp variation (LP2), Carabelli's trait (UM1), Hypocone (UM2)および4cusp (LM2)の5形質であった.また,出現率の低いものはCanine mesial ridge (UC), Odontome (U and LP1, 2), Distal trigonid crest (LM1), Cusp7 (LM1)およびY-groove pattern (LM2)の5形質であり,周辺の民族集団とは明らかな相違があった.2.ウイグル族の歯冠19形質のうち,コーカソイド的であったのはShoveling (UI1), Double-shovel (UI1), Odontome (U and LP1, 2), Carabelli's trait (UM1), Cusp6 (UM1)および4cusp (LM2)の6形質,シノドント的であったのはWinging (UI1^2), Tuberculum dentale (UC), Premolar lingual cusp variation (LP2), Cusp5 (UM1), Protostyid (LM1)およびY-groove pattern (LM2)の6形質であった.このことからウイグル族の歯冠はコーカソイドとモンゴロイドの双方の特徴を持つことがわかった.3.ウイグル族と他民族集団との類縁性を歯冠19形質に基づいて明らかにするため,Ward法を用いてシノドント(日本人,漢族,満族,朝鮮族,回族,ダフル族,ナシ族),スンダドント(縄文人,タイ人),コーカソイド(ヨーロッパ人,北アフリカ人),ネグロイド(Sub-Saharan African)とのクラスター分析を行った.その結果は,ウイグル族はシノドントとスンダドントからなるモンゴロイド集団のクラスターではなく,ヨーロッパ人と北アフリカ人のコーカソイド集団とネグロイドを含むクラスターに含まれた.4.ウイグル族とシノドント(日本人,漢族,満族,朝鮮族,回族,ダフル族,ナシ族),スンダドント(縄文人,タイ人),コーカソイド(ヨーロッパ人,北アフリカ人),ネグロイド(Sub-Saharan African)の12集団の多次元尺度法による分析を行った結果,ウイグル族はシノドント集団とコーカソイド集団の中間に位置していた.以上のことから,中国新彊ウイグル自治区ウルムチ市に居住する現代ウイグル族はシノドント集団とコーカソイド集団の中間的形質を持つことからシノドントとコーカソイドの混血民族であることが歯冠19形質からも示唆された.