著者
鈴木 輝美 苅谷 愛彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

山梨県御坂山地西部に位置する四尾連湖(湖面標高885 m,深度9.9 m)について,これまで演者らは地形・地質情報に基づきその成因と形成年代,発達過程を議論した(鈴木ほか2014 JpGU HDS29-P06;鈴木・苅谷2015 JpGU HDS25-P02)。その後の調査で新たに得た地形・地質情報や年代値から,四尾連湖を形成した地すべりの発生過程や,地すべり性湖沼の形成・消滅過程をさらに考察した。本大会では,これまでの議論と新たな成果を総合した四尾連湖の地形発達史について報告する。 現在の四尾連湖が成立する過程において,地すべりが重要な役割を演じてきたことが確認できた。この地域における地すべりの活動は,50 cal ka以降,繰り返されてきたと考えられる。地すべり性の地形変化により,地すべり性湖沼が成立してきた。実際,地すべり地内の数地点に湖成堆積物が分布しており,古湖沼の存在が示唆される。湖成堆積物の分布地点や分布高度から古湖沼は3つ存在していたと考えられる(古湖沼A,B,C)。これらの古湖沼は地すべり移動体にせき止められて形成されたと考えられる。湖成堆積物中の年代試料から得た14C年代値より,3つの古湖沼の形成は50~47 cal kaに完了したと考えられる。特に,現在の四尾連湖に継承された原初的な四尾連湖は50 cal ka頃に最初に成立し,当時の四尾連湖は東西に長い湖水域を持っていたと考えられる。その後,この原初四尾連湖は二次地すべり活動(47 cal ka頃)によって湖水域に流入した地すべり移動体で分断され,古湖沼Aが成立した。また原初四尾連湖の形成とほぼ同時に,古湖沼Bと同Cも成立した。さらに,現四尾連湖の湖岸堆積物を解析したところ,3.5 cal ka以前には四尾連湖の湖面水位が約1 m低かったことも明らかとなった。このように,現四尾連湖は湖水域の変化を伴ったものの現在まで約50 kyにわたり存続してきたが,古湖沼A,B,Cは地形変化による排水や土砂流入により消失した。 山地域においては,地すべりによって湖沼が形成され,水域が変化しつつ,存続したり消失したりする。地すべり性湖沼の地形発達は湖成堆積物から読み取ることが可能であり,さらにそれによって過去の地すべり活動についても考察することができる。地すべり地内においては地すべり変動とそれに伴う湖沼の形成や地形発達は密接に関わっているものと考えられる。