著者
錦織 慎治
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究では,従来の歩行ロボットシステムでは致命的な問題である「転倒」の概念を排除した脚配置をもつ自律歩行ロボットシステムを対象としている.車輪移動型では探査困難であった月・惑星の不整地領域においても,脚移動型がもつメリットを最大限に生かすことができる.通常の脚配置と異なる特殊な形状としたことによって,従来型の歩行に代わる全く新しい移動形態の可能性がある.具体的には,従来のロボットでは姿勢角の大きな変動は転倒を誘発するために忌避されてきたのだが,これを胴体の移動に積極的に利用できる.こうした新たな移動形態として,昨年度に引き続き,動的な胴体回転を伴う移動形態について検討した.昨年度は,ロボットと土壌の間に生じる動的な効果を利用することで,ロボットの登坂能力が向上できる可能性があることを理論的に指摘していたが,本年度はこれを計算機シミュレーションにより実証し,月・惑星探査ローバに求められる不整地踏破性能の向上に役立つことを示した.この研究成果について「11th International Symposium on Artificial Intelligence,Robotics and Automation in Space(i-SAIRAS2012)」にて発表を行った.また,歩行ロボットシステムの自律化において,制御アルゴリズムの簡略化は,その信頼性を向上させるうえで極めて重要となる.そこで,転倒後も円滑な移動継続を可能とするために,転倒待機のための姿勢制御手法を提案した.この成果とこれまでに得られた成果をまとめて「第56回宇宙科学技術連合講演会」にて発表し,国内外の惑星探査ロボット研究者の方々に対して,本研究で扱ったシステムが,月・惑星の不整地探査ミッションにおいて,大きな利用価値があることを示した.その一方でこのシステムを月・惑星環境下で自律化するにあたっての課題を明らかにし,自律化の足場を固めた.