著者
鍵渡 徳次
出版者
日本熱帯農業学会
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.35-39, 1990-03-01

東京都八丈島のパッションフルーツ園で, 果実が腐敗し, 早期に落果する病害が発生した.腐敗果には灰褐色の菌糸を密生するものと, 大形黒色の菌核を形成するものとが見られた.前者からはBotrytis sp.が, 後者からはSclerotinia sp.が分離された.Botrytis sp.の分生子は淡灰色, 単胞, 卵円形, 9-13×7-10μmであり, また多犯性であるので, Botrytis cinereaと同定された.本病菌による果実の腐敗の記録ははじめてである.病名はパッションフルーツ灰色かび病を採用した.Sclerotinia sp.は大形の菌核を形成し, 子のう盤を発生させる.子のう盤は淡褐色で皿状に展開し, 径3.5-6mmである.子のうは無色, 棍棒状, 127-160×7-12μm.子のう胞子は無色, 単胞, 楕円形, 11-15×6-7.5μmである.また多犯性であるのでSclerotinia sclerotiorumと同定された.本病菌による果実の腐敗の記録ははじめてである.病名はパッションフルーツ菌核病を採用した.両病菌の発育適温及びpH価は, 20-25℃, pH5.0-7.0であり, 類似した発育相を示した.