- 著者
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鎌倉 祥太郎
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2011
今年度の研究では、新左翼運動の中でも思想的に特徴のある津村喬とその周辺の研究を、昨年度から引き続き行った。津村喬は反差別運動の思想的な紬であり、その他者論は現在に至ってもなお重要であると考えられる。今年度は、文学者団体である新日本文学の大会で津村が行った大会報告と、平野謙・栗原幸夫といった年長の文学者の否定的反応の検証を行った。そこでは、津村が述べる1970年代のテクスト論・読者論が、「政治と文学」論争の内に自己の文学観や、政治運動と文学運動の関係性を発展させてきた平野らの議倫とがコンフリクトを起こしていることに注目した。この研究の成果は、2014年度に論文化し、『待兼山論叢』に掲載される予定である。また、それと並行し、戦前から戦後をつなぎ新左翼運動へと至る社会思想とそのコンテクストを明らかとするために津村の父親であり、総評事務局長を務めたことのある高野実に注目し、敗戦直後の組合運動とそこでの高野のかかわりについて考察した。戦前の労働組合組織では右派にあたる総同盟が戦後再建され、左派活動家の役割が重要となっていく局面において、高野が果たした指導的役割と、経済復興会議が政党政治と切り結びながら労働組合運動に与えた影響を検討した。また、今年度は中国への調査旅行も続けて行った。津村の思想の特色の一つとして中国観、とくに毛沢東思想に影響を受けているという点が挙げられる。戦争の記憶をめぐる日中の歴史認識の違いを、まずは国家レベルでとらえるために、本年度は戦争記念館を訪れ調査を行った。戦後日本の社会運動研究が一国史的な枠組みに閉じないためにも、有益な調査であったと考える。