著者
遠藤 哲郎 鎌田 弘之
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では、カオス変復調システムを有限ビット長により構築した場合に現れる諸問題について検討し、カオス性の劣化を防ぐ対策について研究した。カオス信号は実数値(=その表現に無限桁を要する)で表現したときに、はじめてその本来の非周期,ランダム性を示す。しかし、実際の工学上の応用では、特にデジタルシステムを考えた場合、当然その表現は有限桁となる。このようにカオスの計算を有限桁演算で行った場合、どのような信号が現れるであろうか。一般にカオスを有限桁で表現すると、長い周期を持った周期信号になる(これを擬似カオスという)。この擬似カオスは1周期に比べて短い時間で考えれば近接する軌道の初期値鋭敏性や、自己相関関数や異なる初期値から出発した軌道の相互相関関数が時間と共に0に近づくというカオスと同様な性質を持っている。このような性質から擬似カオスは受信側と送信側のそれぞれで生成した擬似カオスの同期をとることにより、ある程度の秘匿性をもったカオス変復調システムを実現することができる。計算は実用的な16ビット固定小数点方式のデジタルシグナルプロセッサを想定し、乗算に伴う32ビットアキュームレータを特殊な方法によって16ビットに圧縮している。このようなシステムの性能は擬似カオス信号のランダム性の程度に依存する。そこで、具体的に擬似カオス信号のもつランダム性について検証する。近年、カオス信号のランダム性の検証は多方面で検討が始まっているが、ここではFlorida State Universityから提案されているDiehardと命名されている統計テストを採用し,ランダム性の検証を試みる。本研究では、Diehardテストによる規則性の判別とパラメータの設定法、およびリアプノフ指数から計算される予測不能性を示すKSエントロピーの分布とを比較し、Diehard Testにより規則性が見出されないための条件を求めることに成功した。