著者
前田 豊 鎌田 拓馬
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.78-96, 2019 (Released:2020-06-25)
参考文献数
40
被引用文献数
1

本稿では,個別事例の因果推論におけるSynthetic Control Method(SCM)の利用可能性を検討する.SCMは処置前の結果変数と共変量で処置を受けた主体と一致するように,対照群を適当な重みづけから統合したsynthetic controlを構築し,このsynthetic controlと処置群との比較から個別主体の因果効果の識別を行う.本稿ではSCMのアプリケーションとして,阪神淡路大震災が貧困層拡大へ与える影響を検討した.分析の結果,震災発生後にラグ期間を伴って生活保護後受給者数は増加し,震災発生から15年たっても,震災効果が持続することが示された.本稿ではさらに,推定のパフォーマンスの観点からSCMのオルタナティブとなる差の差(Difference-in-Differences,DD)分析との比較を,実データ,およびモンテカルロ・シミュレーションを用いて行った.結果として,主体毎に異なる時間的トレンドが存在しない場合には,SCMとDDは同様の推定値を導くが,主体毎に異なる時間的トレンドが存在する場合は,SCMの方がバイアスの少ない推定量であることが示された.これらの結果は,個別主体の因果推論において,とくに未知の時間的トレンドが存在する場合に,SCMが適した推定手法であることを示している.