- 著者
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長尾 光之
- 出版者
- 福島大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1995
後漢から南北朝期の口語資料を多くふくむ漢訳仏典とその他の口語資料を用い、1.疑問文 2.得 3.与 4.着 5.被 6.代名詞 7.2音節と2字連語 8.縦使、仮使 9.重複形式 10.量詞 11.接尾詞、の枠組みに従い、言語体系の一部を明らかにした。そのうち、漢訳仏典をはじめとする魏晋南北朝期に多用される「どこ、なに」の意味で用いられている「何所」に着目して変遷の様子をさぐった。先秦において「なに」をあらわす代表的な疑問代名詞は「何」であった。漢代には近代語に連なる2音節化の傾向のなかで疑問詞「何等」が現れる。六朝には疑問詞「底」が用いられ、連用されて「底是」ともなる。また、「何」が「物」と連用されて「何物」ともなる。「等、底」系には形態素{T}を、「物」系には{M}を設定する。{T}は時代を追って{S}に変化して行ったものと考えられる。唐代の文献を見ると「是」と「所」を同音で標記している場合がある。「所」が魏晋南北朝期に幅広く用いられたのはこの期にすでに{S}系疑問詞が発生したことの反映と考えられる。「等、底」が現代語「什公」の前身である「是物」などに連なって行くさいに「所」がその橋渡しをしたという仮説を立てた。そのほか、漢訳仏典の代名詞について総合的に論述している兪理明『仏教文献語言』を紹介した。また、4世紀の口語を反映していると考えられる鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』のテキストのうちパリ国立図書館・ペリオ文献に収められている同経の目録を作成した。