著者
長島 優
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2018-04-01

顕微鏡画像から画像特徴を抽出する試みは数多い。しかし、ノイズのある条件下で、観測者の主観に依らず、測定対象についての事前の知識なしに、元信号の定量性を保ったまま、特定の画像特徴に相関する信号成分を取り出す方法は、従来限られていた。生物の視覚情報処理の数学的モデルとして提唱されたスパースコーディングは広義の独立成分分析の一種であり、過完備な独立基底の推定に用いられる。我々はこれを用いた新規の画像解析法を考案した。顕微鏡画像を画素毎に波長の情報を持つ3次元配列(x, y, λ)と捉えて、スパースコーディングを用いて線形過完備な独立基底の推定を行った。一般に、このとき得られる独立基底は3次元の配列となる。次に、この3次元の独立基底をその特徴(色・テクスチャー・形など)に基いて分類・弁別し、特定の特徴に相関のある独立基底のみを抽出した。抽出した独立基底を、特徴群毎に加算して元画像のdimensionに再構成することで、もともとの顕微鏡画像の信号の線形性を保ったまま、特定の画像特徴に相関する信号成分のみを抽出することができた。polystyrene(PS), polymethyl methacrylate(PMMA), polyurethane(PU)ビーズをプレパラート上で混合し、自発ラマン分光顕微鏡でイメージングした。二次元のラマン分光画像は、空間的な一ピクセル毎に一つの波長方向のスペクトルを持つ3次元配列のデータ構造を持つ。このデータを非負スパースコーディングを用いて8個の独立基底に分解した。求めた8個の独立基底を、in vitroで測定しておいたPS, PMMA, PUの三種類の物質のラマンスペクトルと比較し、最も相関の高い独立基底をそれぞれ一つずつ選択した。選択された独立基底単独の空間分布を、元画像の二次元座標上に再構成してみると、ビーズの形状・空間分布を得ることができた。