著者
長棹 由起 富田 美穂子 金銅 英二
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.3-12, 2022-06-30 (Released:2022-07-25)
参考文献数
28

目的:多くの高齢者施設では,オーラルフレイルの予防として,舌口唇機能訓練である「パタカラ体操」が実施されている。しかし,舌口唇機能訓練による認知機能や口腔周辺の筋力への効果は明確にされていない。そこで,舌口唇機能訓練が認知機能および舌筋力と口唇閉鎖力に与える効果を明らかにすることを目的とした。 方法:高齢者(66~98歳)60名を舌口唇機能訓練有群(T群)と訓練無群(N群)に分け,T群には舌の出し入れと「パ」「タ」「カ」の各音の5秒間連呼を1日3回実施させた。両群全員に対して,認知機能(MMSE),舌の口腔湿潤度,舌口唇機能(舌口唇運動機能),舌筋力,口唇閉鎖力を3カ月おきに21カ月後まで測定した。各群内の各回の値を比較するとともに,初回時に対する各回の差(MMSE)や変化率(舌の口腔湿潤度,舌口唇運動機能,舌筋力,口唇閉鎖力)を両群で比較検討した。 結果:群内の比較では,MMSEと舌口唇運動機能において各回に有意差は認められなかった。T群の口腔湿潤度は,訓練前に比べ訓練21カ月後,舌筋力と口唇閉鎖力は,訓練12カ月後以降に有意に上昇した。差や変化率を用いた両群の比較では,MMSEは18カ月後以降,舌口唇運動機能は9カ月後と21カ月後に有意差が認められた。T群の舌筋力の変化率は9カ月後以降N群より高く,口唇閉鎖力は21カ月後にN群より高かった。 結論:舌口唇機能訓練の継続は,舌筋力や口唇閉鎖力を上昇させるとともに,認知機能や発音機能の維持に有効であることが示唆された。