著者
金銅 英二
出版者
特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.307-316, 2014-11-25 (Released:2015-12-23)
参考文献数
18

神経障害性疼痛は,知覚神経が機能異常を起こし痛みを惹起している.近年,神経障害性疼痛の発症メカニズムに関して様々で活発な研究が行われ,神経障害性疼痛に関与する神経伝達物質や関連分子が神経回路のどの部位でどう作用しているのか,その詳細が明らかになりつつある.正常状態の場合,知覚神経細胞は末梢で各種の刺激を受けると,その刺激情報は電気的な信号に変換され中枢へと伝えられる.一方,中枢側の終末では電気的な変化を受け,神経伝達物質が放出される。その物質が次の神経細胞の細胞膜上の神経伝達物質受容体に結合し,再び電気信号変換が惹起され,さらに上位中枢へと伝えられる.これらの電気信号変換や神経細胞間の伝達機構において,過剰興奮や過敏反応,脱抑制などが生じ,神経障害性疼痛が発症していることが明らかになってきたが,まだ全てが解明されたわけではない.現在までに明らかになっているメカニズムを概説し,神経障害性疼痛に対する理解を深め,臨床現場の様々な痛みへの最良の診断方法や治療法が一日も早く確立されることに期待したい.【顎咬合誌 34(3):307-316,2014】
著者
長棹 由起 富田 美穂子 金銅 英二
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.3-12, 2022-06-30 (Released:2022-07-25)
参考文献数
28

目的:多くの高齢者施設では,オーラルフレイルの予防として,舌口唇機能訓練である「パタカラ体操」が実施されている。しかし,舌口唇機能訓練による認知機能や口腔周辺の筋力への効果は明確にされていない。そこで,舌口唇機能訓練が認知機能および舌筋力と口唇閉鎖力に与える効果を明らかにすることを目的とした。 方法:高齢者(66~98歳)60名を舌口唇機能訓練有群(T群)と訓練無群(N群)に分け,T群には舌の出し入れと「パ」「タ」「カ」の各音の5秒間連呼を1日3回実施させた。両群全員に対して,認知機能(MMSE),舌の口腔湿潤度,舌口唇機能(舌口唇運動機能),舌筋力,口唇閉鎖力を3カ月おきに21カ月後まで測定した。各群内の各回の値を比較するとともに,初回時に対する各回の差(MMSE)や変化率(舌の口腔湿潤度,舌口唇運動機能,舌筋力,口唇閉鎖力)を両群で比較検討した。 結果:群内の比較では,MMSEと舌口唇運動機能において各回に有意差は認められなかった。T群の口腔湿潤度は,訓練前に比べ訓練21カ月後,舌筋力と口唇閉鎖力は,訓練12カ月後以降に有意に上昇した。差や変化率を用いた両群の比較では,MMSEは18カ月後以降,舌口唇運動機能は9カ月後と21カ月後に有意差が認められた。T群の舌筋力の変化率は9カ月後以降N群より高く,口唇閉鎖力は21カ月後にN群より高かった。 結論:舌口唇機能訓練の継続は,舌筋力や口唇閉鎖力を上昇させるとともに,認知機能や発音機能の維持に有効であることが示唆された。
著者
脇本 仁奈 吉成 伸夫 小笠原 正 薦田 智 河瀬 瑞穂 河瀬 聡一朗 大木 絵美 伊能 利之 金銅 英二 岡田 芳幸
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.84-90, 2021

<p>歯肉肥大を誘発する薬物の服用や遺伝的素因はないが,水平性歯肉肥大を認める重症心身障害児・者を散見する.重症心身障害児・者病棟入院中の患者で,歯肉肥大を誘発する薬物の服用や遺伝的素因がなく,3.5mm以上の水平性歯肉肥大がある者の比率,臨床的特徴を検討した.</p><p>対象者は,重症心身障害児・者病棟入院中の患者73名であった.入院記録から年齢,性別,疾患,ADL,常用薬,栄養摂食状況を調査用紙に転記した.口腔内診査は,プロービング検査,咬合状態,Plaque Index,3.5mm以上の水平性歯肉肥大の有無を評価した.水平性歯肉肥大は,歯肉肥大を誘発する薬物の服用はなく,WHOプローブにて水平的に3.5mm以上の肥大を1カ所でも認めたものとした.水平性歯肉肥大を認めた者は,入院記録からフェニトインなどの服用経験を調査し,保護者へ家族で遺伝性歯肉線維腫症を認めた者の有無を聴取するとともに水平性歯肉肥大の臨床的特徴を検討した.</p><p>特発性水平性歯肉肥大の発現率は,重症心身障害児・者で73名中4名(5.5%),胃瘻のみでは18名中4名(22.2%)であった.特発性水平性歯肉肥大を認めた者は,そうでない者と比較して平均年齢が低く,経管栄養と開咬の者の割合が有意に多かった.特発性水平性歯肉肥大の特徴は,上顎前歯部と上下顎臼歯部の口蓋側・舌側への水平性の肥大で,薬物性歯肉肥大症や遺伝性歯肉線維腫症とは歯肉肥大の形態特徴が明らかに異なっていた.4例とも経口摂取の既往を認めなかった.</p>
著者
金銅 英二
出版者
特定非営利活動法人 日本顎咬合学会
雑誌
日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学 (ISSN:13468111)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1-2, pp.88-93, 2015-04-25 (Released:2016-06-17)
参考文献数
9

痛覚情報は末梢神経系から中枢神経系へと入力されたあと上行性の経路(外側系と内側系)を経て視床の神経核で中継され,さらに上位中枢へと投射される.中枢神経系の機能局在はブロードマンやペンフィールドらが明らかにしているが,脳内の神経核間で広範囲かつ複雑に連絡網を形成しており,痛覚情報認知システムや情動については不明な点が多かったが,近年fMRIなど画像診断装置・技術の進歩により脳科学が大きく進歩し,多様な痛覚の病態に関連する脳活性部位が明らかになりつつある.特に視床と大脳皮質感覚野や扁桃体・前帯状回・側坐核・海馬などとの回路網について注目し,痛みの認知がどこで行われているか,また痛みに伴う情動の形成はどこで行われているかなど解説した.