- 著者
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長澤 紀美子
- 出版者
- 社会政策学会
- 雑誌
- 社会政策 (ISSN:18831850)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, no.2, pp.87-100, 2017-11-10 (Released:2019-11-11)
- 参考文献数
- 48
イギリスは,1990年代のコミュニティケア改革により,欧州の主要国の中で最初に社会的ケアを市場化した国であり,当初は民間委託,その後労働党政権の第2期以降はパーソナライゼイション政策を通して市場化,すなわち準市場の導入が進められた。 本稿では,平岡による準市場の類型論を踏まえ,イギリスの社会的ケア領域における市場化の展開を準市場の構造に着目して分析し,市場化がもたらした影響と課題について考察することを目的とする。分析を通して,社会的ケアの準市場は,現物給付中心の「サービス購入型」から,消費者主導型現金給付のパーソナライゼーション政策の導入により「利用者補助型」に移行していると言える。前者において,自治体は強い購入権限を持ち,厳しい予算制約の下での市場の失敗がみられた。後者において,インフォーマルケアの現金給付化に伴い,市場における消費者選択の保障と,管理主義的な利用者保護との間でバランスを取る公的介入の範囲や水準が問われている。