- 著者
-
長縄 秀俊
- 出版者
- 日本陸水学会
- 雑誌
- 陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.4, pp.585-606, 1999-12-01 (Released:2009-06-12)
- 参考文献数
- 82
- 被引用文献数
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バイカル湖オリホン島の小水域から得られた大型鰓脚甲殻類(カイエビ目)の1種をBaikalolkhonia tatianae gen. et sp. nov.(バイカロルホニア・タチヤニ新属・新種)として記載した。本属は,前額部に付属器官および全鰓脚に上肢三角板をそれぞれ欠き,尾節に1対の顕著な前棘が存在する点に基づき,科Cyzicidae STEBBING,1910(カイエビ科)に属すると判断された。本属固有の主な分類学的特徴は,第1脚対を含む前寄りの鰓脚上肢上角の多数が「円筒器官」へと変形していることである。この一連の上肢付属器官の特異な体制は,カイエビ科としては全く未知のものであり,かつ異例の形質でもあるため,カイエビ科の標徴を再評価し,同科において新たに定義された2亜科(バイカルカイエビ亜科Baikalolkhoniinaeおよびカイエビ亜科Cyzicinae)を提示した。本種以外のカイエビ目として,今日までに東アジア(極東ロシア,モンゴル,中国,韓国および日本)の隣接地域からは,4科(マルカイエビ科Cyclestheriidae,カイエビ科Cyzicidae,トゲカイエビ科Leptestheriidaeおよびヒメカイエビ科Limnadiidae)に分類される7属11種が知られている。これらの分布は,4つの動物地理学的な要素によってほぼ説明され,種の多様性については,ヨーロッパのカイエビ相と同様な,緯度に伴う明確な勾配が認められた。東アジアのカイエビ類について,種レベル・タクサまでのリストと検索表を付した。