著者
長谷 康夫
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-15, 2001-08-31

日本近代初期図書館史を解明するために, 明治17年(1884)の秩父事件に関係した者のリテラシーに注目した。分析の結果以下が判明した。秩父とその周辺地域において過半数を超える"国民"はリテラシーをもたない。しかし"国民"のなかでも町村有力者は最もリテラシーが高い集団であり, 公認自由党員・非公認自由党員・困民党中核が同程度で次いでいる。時系列的にみると文化期(1810年代)中ごろから明治10年代(1880年代)中ごろまでリテラシーに変化がないことから, 寺子屋や近代公教育はリテラシーの現状維持に寄与するのみである。当該地域において文字は普遍的に有用とはいえないため, "国民"は町村有力者層をはじめとするリテラシーが高い層を除き, 新聞・雑誌・図書などの活字メディア, ジャーナリズム, 図書館を媒介として, 国家についての関心をもちにくく, 国民統合が困難と考えられる存在である。