著者
辻 慶太 遠藤 諭 水沼 友宏
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.69-86, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
76

本研究では,カーリルの検索記録,国立国会図書館オンライン,公立図書館のOPAC, CiNii Books 等を用いて,以下の4 種類の図書が存在することを示した。即ち,(1)国立国会図書館(及び大学図書館)が所蔵しておらず,公立図書館が所蔵している図書,(2)それらのうち公立図書館が除籍してしまった図書,(3)その結果,国立国会図書館(以下, NDL)も大学図書館も公立図書館も所蔵しなくなってしまった図書,(4)そうした状態に陥る危機にある,NDL も大学図書館も所蔵しておらず,公立図書館1 館だけが所蔵している図書,の4 種類である。さらに,つくば市立図書館の除籍図書リストを用いて,同館も NDL が所蔵していない図書を除籍したことを示した。本研究では,公立図書館による共同・ 分担保存の例は少ないことを示した上で,NDL が所蔵していない図書を公立図書館が除籍する時は,NDL に寄贈することを提案した。
著者
大場 博幸
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.67-84, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
30

2019 年4 月~5 月に発行された一般書籍600タイトルのデータセットを用いて,公共図書館の所蔵と貸出による新刊書籍の売上への影響について検証した。各タイトルについて,発行直後から11ヶ月間,全国を単位として,月毎の売上部数,月毎の所蔵と貸出,月毎の需要を示す指標,月毎の古書供給数と古書価格,同期間の委託状況,同期間の電子書籍の発行状況を調べた。これらをパネルデータとし,売上部数を目的変数,そのほかを説明変数として固定効果モデルによる回帰分析を施した。分析の結果,平均値を基準としたとき,前月の所蔵1 冊の増加につき月平均で0.06 冊の新刊売上部数の減少,前月の貸出1 冊の増加につき月平均で0.08 冊の減少という推計値が得られた。このほか需要の減少や古書供給の増加もまた新刊書籍の売上冊数にマイナスの影響を与えていた。需要の高いタイトルに対する図書館による特別な影響は観察されなかった。
著者
佐藤 翔 伊藤 弘道
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.55-68, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
17

本研究では公共図書館において,図書の書架上の位置が利用者の注視時間に与える影響を明らかにすることを目的に,視線追尾装置を用いた被験者実験を行った。実験は2017年10 ~11 月にかけ,愛知県の豊橋市中央図書館にて実施し,11 名の被験者が参加した。被験者には視線追尾装置を装着し,自身が読みたい図書を1 冊以上,館内から選択するタスクを課した。得られたデータから書架を注視している場面を抽出し,書架の高さ,注視されていた垂直位置(段),水平位置(左・中央・右)ごとの注視時間を算出した。分析結果から以下の知見が得られた。(1)書架上の垂直位置(段)は配架図書の注視時間に影響し,上段の方が下段よりも長時間見られる傾向がある。また,書架自体の高さにより垂直位置が注視時間に与える影響は異なる。(2)書架上の水平位置は図書の注視時間に影響しない。(3)書架上の垂直位置と水平位置の間に交互作用は認められない。
著者
大場 博幸
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.65-81, 2015-06-30 (Released:2017-04-30)
被引用文献数
1

憲法上の表現の自由と図書館の役割を結び付ける議論を「表現の自由」目的説と定義し,その展開を検討した。CIPAをめぐる2003年のALA判決は内容に基づいた資料選択が避けられないことを理由に図書館を非パブリック・フォーラムとした。ALAは1990年代から図書館=限定的パブリック・フォーラム論を採用したが,表現の自由の保護の徹底は図書館員の裁量を限定しないものだという誤解があった。日本でも同様の誤解から資料請求権が提唱されたが,法律家はそれを否定している。2005年の船橋市西図書館蔵書廃棄事件判決における「公的な場」への言及は図書館への限定的パブリック・フォーラム論の適用であるという議論が現れたが,優勢とはなっていない。このように「表現の自由」目的説は成立しなかったが,それによって現実の図書館も,「図書館の自由」も特に影響を被ることはなかった。
著者
李 常慶
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-15, 2006-03-20 (Released:2017-05-04)

中国では,1990年代から2000年代の始めにかけて,『四庫全書』続修の一環として,四庫全書関連大型叢書,すなわち,『続修四庫全書』,『四庫全書存目叢書』,『四庫禁毀書叢刊』が刊行された。本稿は,まずそれらの刊行要因およびその経緯について詳しく検証した。ついで,それをもとにして,広い文化的視野から四庫全書関連叢書の刊行事業を分析した。これらの考察を通じて,古典籍の整理と刊行は,古典籍を保護し伝承するのに必要なものであること,および,これらの叢書が単に出版物として読者に益をもたらすのみならず,その出版自体が大きな文化史的意味を持つものであることを明らかにした。
著者
大場 博幸 安形 輝 池内 淳 大谷 康晴
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.139-154, 2012-09-30
被引用文献数
1

日本の公共図書館・大学図書館・国立国会図書館の所蔵傾向について包括的な調査を行った。2006年上半期に刊行された約3万5千点の書籍を対象とし,2010年にカーリルやWebcat Plus等を通じて所蔵館数を調査した。調査対象の書籍について出版点数と需要を軸に分布を示し,館種別の所蔵数の分布と比較した。また,絶版書籍や選定図書の所蔵率も調べた。結果から次のことが明らかになった。第一に,公共図書館群は8割以上の所蔵率を示した。この結果は,公共図書館の蔵書が共通の書籍に集中しているわけではないことを推定させる。第二に,大学図書館群は出版点数や需要の分布とは異なる所蔵の偏りを見せること。これは,大学図書館が選択的な所蔵をおこなっており,かつ図書館間でその評価基準が共有されていることを推測させる。第三に,国立国会図書館には約1割の所蔵もれがあり,これは先行文献で報告されていたことと同様だった。
著者
呑海 沙織
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-16, 2010-03-31

本研究は,大正7年(1918)の大学令下における私立大学設置に際して大学図書館に求められた要件について考察を行い,大正期の私立大学図書館の実態を明らかにするとともに,大学令が私立大学図書館に与えた影響についても考察を行うものである。私立大学図書館に関する認可要件は,「大学設置認可規定(秘)」によって規定されているが,本研究によって私立大学の多くは設置認可時にこの要件を充たしていなかったことが明らかになった。一方,大学令は私立大学図書館の礎を築くとともに,大学図書館の必要性を浸透させる役割を果たしたといえる。
著者
安里 のり子 ウエルトハイマー アンドリュー 根本 彰
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.19-32, 2011

2006年に出版されベストセラーになった有川浩の『図書館戦争』シリーズを題材にこの小説が日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」に触発されて書かれたことからそこで表現されている暴力的イメージの源泉を分析した。「宣言」は,1953年に埼玉県図書館協会が「図書館憲章案」として提案したものが元になり,1954年の図書館大会および日本図書館協会総会で激論の後に採択された。本稿ではこれらの案文をその社会的背景に照らし分析した結果,有川が「宣言」から読み取ったものは,その文言に込められた当時の図書館員の潜在的なメンタリティーである「権力に抵抗する図書館」という職務理念であると指摘した。また,当時の議論では最初使われた「抵抗」という表現が,検討過程で外的な要因に配慮し,図書館自らの主体性を強調することから他の言葉に置き換えられたことを明らかにした。
著者
新居 池津子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.1-18, 2020 (Released:2020-02-28)
参考文献数
43

本研究の目的は,昼休み時間を過ごす中学生にとって,学校図書館がどのような機能を果たしているのかについて,その全体構造を明らかにすることにある。第一に,質問紙調査により,生徒が館内で過ごす場所を同定し,その場所でどのように感じているのか,居場所の機能を測定する項目尺度を用いて平均評定を算出した。第二に,参与観察のデータに基づき,KJ 法により生徒が過ごしている状態を同定し全体構造の様相を捉えた上で,マイクロ・エスノグラフィーの手法を用いて生徒の行動と周辺書架との関係が,観察者である筆者にどのような居方として認識されているのかという中学生の居方の観点から解釈的に事例分析を行った。その結果,学校図書館は,書架との関係により1 つの館内に同時多発的に,中学生が過ごす場所と居方の選択が複数提供されることから,校内における1 つのセーフティーネットとして多様な機能を併せもつことが明らかとなった。
著者
李 常慶
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.153-165, 2005-12-15 (Released:2017-05-04)

本稿は, まず, 『四庫全書』の続修をめぐる歴史的要因を明らかにし, その上で, 清朝末期から民国時代までにわたる『四庫全書』を続修しようと呼びかける運動やその編纂計画などを歴史的に検証した。ついで, この検証に基づき, 東方文化事業総委員会による『続修四庫全書総目提要』の編纂および台湾と中国大陸における『続修四庫全書総目提要』の刊行を事例として取り上げて, 『四庫全書』の続修に関する歴史的な展開を考察した。この考察によって, 『四庫全書』の続修に関する呼びかけや編纂計画は, 『四庫全書』の欠陥を補い, 中国古典を本来の姿に回復させるものであるだけではなく, 古典を保護し伝承するのにも必要不可欠なものであることを明らかにした。
著者
大場 博幸 安形 輝 池内 淳 大谷 康晴
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.83-100, 2016 (Released:2016-11-11)
参考文献数
23

公立図書館における中立・公平な所蔵について検討した。2014 年から2015 年にかけて日本国内で論議された「集団的自衛権」を主題とする91 点の書籍の所蔵について調べた。書籍を賛否に従ってグループ分けしたところ,需要においては賛成本が勝っていたが,否定本のほうが4倍弱多く所蔵されていた。一点当たりの所蔵数においては否定本が1.2 倍程度有利に所蔵されていた。所蔵に影響する他の要因も含めて重回帰分析をしたところ,出版社の信用(特に岩波書店刊行書籍),需要,書籍の質などの要因とともに,否定本であることも有意な要因であった。続いて,賛否の所蔵数の比を基準に図書館設置自治体をグループ化し,所蔵規模別に検討した。結果,所蔵規模が大きくなるほど中立的となり,小さくなれば賛否どちらかに偏ること,特に否定本に偏るケースが多いことが明らかになった。否定本のみ所蔵する自治体は全体の1/4 強存在した。
著者
木村 麻衣子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.147-165, 2018 (Released:2018-12-18)
参考文献数
55

国内で構築されている漢籍デジタルアーカイブの運営状況を明らかにし,漢籍デジタルアーカイブの横断検索を実現するために解決すべき問題点を整理することを目的として, 2 段階の質問紙調査と訪問調査を実施した。68 機関より合計77 件の漢籍デジタルアーカイブに関する有効な回答を得た。デジタルアーカイブの連携を目指して策定されたガイドラインの枠組みに沿って問題点を整理した結果,これらの漢籍デジタルアーカイブは,画像データの作成や提供に関しては必要なレベルをおおむね満たしているものの,メタデータの提供や共有についての達成度が比較的低かった。特に,漢籍のメタデータのみを抽出することができるデジタルアーカイブは43.4%に留まり,今後漢籍デジタルアーカイブの横断検索を実現するためには,個々の漢籍デジタルアーカイブがメタデータをより連携しやすい形で再整備する必要がある。
著者
三波 千穂美
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.128-138, 2001-03-31 (Released:2017-05-04)
被引用文献数
2

歴史学分野の学協会誌における投稿規定の整備状況を,記載された項目に着目し,調査を行った。まず雑誌を発行している学協会を抽出し,その雑誌に掲載されている投稿規定を収集した。次にそこに記載されている項目を列挙し,分類および考察を行い,さらに科学技術分野における調査との比較を行った。その結果,以下の点が明らかとなった: (1)項目の内容には,科学技術分野における調査結果との大きな違いは見られない; (2) 項目の記載率は多様である; (3) いくつかの項目の記載率が,科学技術分野における調査結果とは非常に異なっていた。
著者
池内 有為 逸村 裕
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.20-37, 2016-03

学術雑誌によるデータ共有ポリシーの分野別状況を明らかにするため,22 分野各10 誌の投稿規定を調査した。リポジトリにデータを公開して論文に識別子を記すポリシーと補足資料のポリシーを,それぞれの要求の強度に従って4 段階に分類した。生物・医学の10 分野はリポジトリによるデータ共有ポリシーの掲載率や強度が高い傾向にあり,共通のリポジトリを例示していたが,農学,薬理学・毒物学,精神医学・心理学の掲載誌はそれぞれ7,6,2 誌であり領域内で差がみられた。地球科学,宇宙科学,社会科学はデータ共有が盛んであるが,リポジトリによるポリシーの掲載誌は7,6,4 誌であった。また,工学など6 分野は0~2 誌であった。全220 誌の掲載率はリポジトリが59.5%,補足資料が89.5%であった。研究倫理やCOI(利益相反)に関する記述がある雑誌や商業出版社の雑誌は掲載率や強度が高い傾向にあることから,データ共有ポリシーは研究不正と関連があることが示唆された。
著者
宮田 洋輔 上田 修一 若宮 俊 石田 栄美 倉田 敬子
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.109-118, 2017

<p>現代における学会発表の位置づけを考察することを目的として,ウェブサイトに対する事例調査とメールによる質問紙調査を実施した。54 学会を対象とした事例調査からは,研究集会の定期開催,開催事務局への依存と前例を踏襲する傾向が分かった。質問紙調査では世界中の285 学会からの回答を分析した。その結果,1)自然科学・医学系ではポスター発表も採用,2)ほとんどで査読を実施,3)人文学・社会科学系では配布資料・口頭のみでの発表も認められていること,4)発表資料の電子形式での記録,提供はあまりなされていないこと,などが明らかになった。以上から,研究者のインフォーマルな交流の場としての研究集会という認識は大きく変化していないこと,学会発表は研究集会の一部と見なされていること,発表を研究成果として独立して蓄積し,広くアクセスできるようにする意識が弱いことが示唆された。</p>
著者
谷口 祥一
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.124-140, 2011-12-31

総合目録ネットワーク「ゆにかねっと」のレコード群を対象に,機械的な書誌同定と著作同定を試みた。どの程度機械的同定が可能であるのか,どのような選択肢が有効であるのかを検証した。DC-NDL形式の書誌レコードから指定したフィールドの値を抽出し,正規化処理を加えて同定キーを生成し,同定用に保持したデータベースと照合する方式とした。タイトルや著者の採用する範囲,同定キーの組み合わせ方,その他の選択肢について,それぞれ機械的同定処理を実行し,人手により形成した正解集合との照合に基づき評価を行った。その結果,機械的な書誌同定と著作同定はともに十分に機能することが示された。併せて,1)採用した正規化処理の有効性,2)シリーズタイトル以外のタイトルとそのよみの包括的な採用,タイトルの分解・組み立ての採用の有効性が,また3)著者とそのよみの包括的な採用,出版者による著者の代用の有効性がそれぞれ示された。
著者
下野 幹弥
出版者
日本図書館情報学会
雑誌
日本図書館情報学会誌 (ISSN:13448668)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3-4, pp.123-137, 2021 (Released:2021-09-30)
参考文献数
34

本研究では,書籍の需要の価格弾力性を推定することを目的とし,電子書籍の価格変動に伴う電子書籍及び紙書籍の需要量の変化について分析を試みた。オンライン書店「Amazon.co.jp」の販売する電子書籍400 タイトルを分析対象とし,各カテゴリの書籍群について,順位・価格データを用いた需要の価格弾力性の推定を行った。また,紙書籍についても分析を行い,電子書籍と紙書籍の関係性を表す,需要の交差価格弾力性の推定を行った。分析の結果,カテゴリ間で需要の価格弾力性の値に差があり,「資格・検定・就職」,「暮らし・健康・子育て」等の書籍群で弾力性が低い傾向が見られた。順位上位群は下位の書籍群に比べ,需要の価格弾力性が高い傾向が見られた。電子書籍と紙書籍の分析では,電子書籍価格に対する紙書籍需要の交差価格弾力性がゼロに近い値となった。