著者
長友 拓憲 川平 和美 弓場 裕之 佐々木 聡 伊藤 可奈子 長谷場 純仁
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.149, 2006

【はじめに】<BR> 転落によりTh12からL2(L1粉砕骨折)の損傷による脊髄損傷患者に対し、両側KAFOの膝継手として、Spring assisted extension knee joint:伸展補助装置付膝継手(以下SPEX:アドバンフィット社製)を処方し、歩行の実用性に改善がみられたため報告する。SPEXの特性として、筋力に応じた膝伸展補助装置機能があり、伸展位固定でも軽度の屈伸の可動性が得られ、膝折れを予防する効果がある。そのため立脚初期に軽度の膝屈曲が出現し、二重膝作用が働き正常に近いスムーズな交互歩行が可能となる。リングロック固定式にも使用でき、無段階の可動域調整が可能である。また屈曲拘縮の矯正が0°から60°の範囲で一定のトルク負荷が可能であり、コイルスプリングをスチールロッドと交換し屈曲制限及び固定として使用可能である。適応は、脳卒中片麻痺、脊髄損傷、大腿四頭筋筋力低下、膝及び肘関節拘縮、進行性筋ジストロフィーに用いられる。<BR>【症例・理学療法経過】<BR>50才女性。転落によるTh12からL2(L1粉砕骨折)の損傷。胸腰椎骨折固定術施行。入院時評価:American Spinal Injury Association(以下ASIA)は運動C、感覚C。下肢は不全麻痺が両側に残存し、MMTにて股関節外転右2+、左2+、膝関節右伸展4左3+であった。歩行に関しては、膝折れが見られ、平行棒内軽介助レベルにて可能。ADLに関しては、移乗は軽介助レベル、寝返り・起き上がりは自立、座位保持は長座位自立、端座位は自立。立位は両上肢支持にて自立レベル。随意的な膝関節の屈伸運動が可能であるため、SPEXを用い下肢筋力増強、屋内歩行動作獲得を目標に用いた。約2ヶ月間理学療法を施行した。下肢の筋力増強プログラムと併用し、歩行期間に関しては約1ヶ月平行棒内、歩行器での歩行練習をコイルスプリングによる伸展補助力を微調整しながら施行した。退院時評価:ASIAは変化なし。下肢筋力が股関節外転右3+、左3+、膝関節右伸展4、左4に改善した。ADLは、車椅子への移乗が自立レベルに改善した。歩行に関しては、SPEX使用にて平行棒内歩行自立レベル、屋内歩行を歩行器にて監視レベルにて可能となった。<BR>【考察】<BR>今回はSPEXのコイルスプリングによる伸展補助力の微調整と足継手(ダブルクレンザック)の調整を行っていきながら歩行練習を行っていき、膝関節の屈伸運動を可能とし、随意的な収縮がみられたため、また自主練習にて平行棒内歩行練習を加え、通常のプログラムによる筋力増強運動も併用し、股関節・膝関節周囲筋の筋力増強がより効果的になり、歩行の実用性につながったと示唆される。<BR>【終わりに】<BR>今回はSPEXのコイルスプリングによる伸展補助力の微調整と足継手(ダブルクレンザック)の微調整をしながら、歩行練習を行ったが、下肢伸展筋力の個人差に対して、コイルスプリングの強度調整が困難であった。また歩行のアライメント調整のため、膝継手と足継手で通常は約2:1の割合で角度調整が求められるが、患者自身の能力、歩行練習中での問診、分析に応じて調整が求められる。今後症例を重ねて客観的な有効性を検討していく。
著者
長谷場 純仁 中尾 周平 池田 聡
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O2175-D3O2175, 2010

【目的】<BR> 近年、心不全や呼吸器疾患の患者に対するEMS (electrical muscle stimulation)による効果が海外を中心に報告されており、これらの疾患で積極的な運動が困難な症例に対してEMSが理学療法の選択肢のひとつとなると予測される。従来、EMSとして低周波を両下肢の主要な筋に対し施行する場合、装着する導子の数も多く、場合によっては複数の機器が必要とされることもあり、周波数や強度の調整も煩雑であった。最近、ポータブルで操作の容易な低周波治療器(ホーマーイオン研究所製 AUTO Tens PRO)と両下肢の主要筋に同時に通電できる、取り扱いも簡便な下肢専用導子が臨床応用された。そこで今回我々は、これらを用い低周波の短期間の施行における筋力増強効果と両下肢の同時刺激による血圧や心拍数などの循環動態への影響を調査した。<BR>【方法】<BR>(実験1) 筋力増強効果について<BR> 対象は健常成人8名(男性7名、女性1名、年齢28.3±4.2歳:平均±標準偏差)。低周波を被験者の左下肢の前脛骨筋(以下TA)に施行した。機器の使用方法は説明書に沿って導子を装着し、部位とモード設定を行えば簡単に施行可能なTHERAPY PATTERN SELLECTIONで部位は下肢、モードは廃用を選択した。これにより施行時間15分と周波数(3-20Hz)は自動で設定された。刺激の強度は被験者が耐えうる最大の強さとして被験者自身が調整し、施行頻度と期間は1日1回、週4日以上の連続3週間とした。TAの筋力測定はBIODEX SYSTEM 3を用い、被験者は仰臥位にて足関節の背屈0度で等尺性収縮による足背屈を5回行い、その最大トルク値の平均から体重比(以下トルク体重比:単位N・m/kg)を求めた。測定は左右両側を実験開始日とその3週間後に行い、それぞれの値について対応のあるt検定を行った(p<0.05 )。<BR>(実験2) 循環動態への影響について<BR> 対象は健常成人13名(男性11名、女性2名、年齢26.1±4.4歳)。低周波は下肢専用導子を使用し、両下肢の大腿四頭筋、ハムストリングス、TA、下腿三等筋に同時施行することとし、機器の設定は実験1と同様で、刺激の強度も被験者が耐えうる最大の強さとした。循環動態の指標として血圧、心拍数、SpO<SUB>2</SUB>、不整脈の有無を施行前、施行開始5分後、同10分後、終了直後に電子血圧計、ECGモニター、パルスオキシメータにより測定した。それぞれの値の比較についてscheffe法による多重比較を行った(p<0.05 )。また、主観的運動強度についてBorg scaleを施行前後に問診し、翌日以降の筋疲労や筋痛についても問診を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には実験に関する目的、方法、リスクについて十分に説明し同意を得た上で実験を行った。<BR>【結果】<BR>(実験1)低周波を3週間施行前後のトルク体重比は、低周波未実施の右TAで施行前0.27±0.09、施行後は0.32±0.12となった(p>0.05)。低周波を施行した左TAは施行前が0.26±0.12で施行後が0.36±0.10となり有意差が認められた(p<0.01)。<BR>(実験2) 両下肢への低周波の同時施行における血圧、心拍数、SpO<SUB>2</SUB>はいずれも施行前、施行開始5分後、同10分後、終了直後において有意差は認められなかった(p>0.05)。Borg scaleは施行後に4が3名、3が1名、2が2名、1が3名、0が4名であった。翌日の問診では10名について筋痛が生じ、その多くが下腿三頭筋に生じていた。<BR>【考察】<BR> 実験1より同機器の低周波によるEMSによって3週間という期間でも筋力増強効果があることが示唆された。しかし、未実施の右TAでも有意差は認められないもののトルク体重比は大きくなっており、これは、他の筋力増強運動に関する多くの研究よっても未施行側も増強されることが認められていることからそれらと同様の結果が示されたと考えられる。また、実験2の結果から、両下肢への主要筋への同時刺激を行っても全身的な循環動態には影響しないことが示された。これは低周波による筋収縮の特性として1回の収縮が極めて短時間であることが理由のひとつであると考える。Borg scaleについは0から4とバラツキが認められたが、刺激の強度について被験者が耐えうる最大の強さとしたことで筋の疲労感に主観的な差が生じたのではないかと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究から低周波によるEMSは全身的な循環動態に影響することなく両下肢筋に施行でき、かつ筋力増強効果が示されたことから、重度の心不全や呼吸器疾患の患者に対する理学療法の選択肢となりうる。さらに効率的に行うための刺激の強度、回数などについて調査する必要がある。<BR><BR>