著者
佐藤 薫 長谷川 史裕 廣田 勇
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.859-872, 1994-12-25
被引用文献数
11

シンガポール(1N, 104E)の1978〜1993年に亘るレーウィンゾンデデータを用いて、赤道域下部成層圏における周期3日以下の温度・水平風擾乱の解析を行なった。短周期擾乱は温度・風成分共に、時折り鉛直波長5km程度の時間と共に位相の下がる内部波的な構造を持つ。その位相構造から、これは内部慣性重力波によるものと考えられる。また、パワースペクトル解析の結果、短周期帯には、これまで良く調べられている周期15日前後のケルビン波や4〜5日周期の混合ロスビー重力波とは独立なピークが存在し、そのエネルギーも大きいことがわかった。次にスペクトル特性の時間変化と平均東西風準2年周期振動(QBO)との関係を調べた。東西風と温度の短周期擾乱は、ケルビン波と同様、平均風が東風から西風にかわるフェーズ(EWフェーズ)でバリアンスが極大となるが、ケルビン波と異なり、平均風が西風から東風にかわるフェーズ(WEフェーズ)でもエネルギーが大きい。さらにクロススペクトルについては、これまでケルビン波についてさえほとんど調べられていない、温度と東西風成分のコスペクトルも解析した。その結果、短周期帯において温度と東西風成分のコスペクトルの絶対値がクオドラチャースペクトルの絶対値よりかなり大きいことがわかった。興味深いのは、コスペクトルの符号がQBOの位相に合わせて変化していることである。すなわち、温度と東向き風成分はEWフェーズではプラス、WEフェーズではマイナスの相関を持つ。これらの結果は短周期擾乱がQBOと深い関わりを持つことを示している。