- 著者
-
長谷部 茂
- 出版者
- 拓殖大学海外事情研究所附属台湾研究センター
- 雑誌
- 拓殖大学台湾研究 = Journal of Taiwan studies, Takushoku University (ISSN:24328219)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.83-110, 2019-03-08
台湾の言語環境は複雑である。複雑になったというべきかもしれない。1987 年の戒厳令解除を一つの画期とする民主化の進展は,それまで当然に受け入れてきた環境が可変的なものであることを台湾に住む人々に知らしめた。言語もまたそのようなものの一つである。これまで北京語を基礎とした標準漢語である中華民国の国語(National language)― 対外的に現在,華語と称される― の陰に隠れて,本来の意味での母語でありながら,国語より数段劣る方言,言語と見なされてきた閩南語や客家語,原住民の諸言語が,華語と対等な言語と見なされるようになったのは,台湾の言語環境にとって未曾有の変化である。言語の違いは民族的文化的に区別される族群(Ethnic groups)意識と密接に結びつくことで,いわゆる「台湾アイデンティティ」のあり方を問う試金石ともなっている。本稿は,この多分に政治的要素を含む台湾の言語環境の変化が,今もなお華語を中心とする台湾の対外的語学教育(台湾における外国人向け語学教育及び台湾人教師による海外での語学教育等)にどのような影響を及ぼしているのか,また,中国大陸(中華人民共和国)の標準漢語である「普通話」が世界標準となりつつある現在,台湾の「華語」は,対外的語学教育において,どのように位置づけられるべきなのか,今後の課題を摘出し,その対策を提言しようとするものである。