著者
四方 正義 村田 武 開発 基良
出版者
日本蠶絲學會
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.157-162, 1974

幼虫脱皮, 蛹化脱皮, そして成虫化脱皮の各脱皮殻のリピドと, 5齢幼虫と蛹の生体表面から得たリピドの炭化水素の化学的組成を比較し, 脱皮のための炭化水素の存在意義についても考察した。さらに, 脱皮殻リピドの炭化水素に対する飼料の影響を見るため桑育と人工飼料育による5齢脱皮殻 (蛹化脱皮殻) についても比較した。<br>1. それぞれの脱皮殻, 生体表面の炭化水素ともn27が最も多く存在する。10%以上存在するものは4齢脱皮殻 (幼虫脱皮殻) でn25, n27, n29, n31, 5齢脱皮殻と5齢生体表面でn25, n27, n29である。蛹脱皮殻 (成虫化脱皮殻) と蛹の生体表面ではn27だけである。<br>2. <i>n</i>-飽和炭化水素は4齢脱皮殻リピドの炭化水素で95.2%を占めるが, 蛹化・成虫化と変態に伴って脱皮殻リピドのそれが減少し, 蛹脱皮殻で35.4%になる。<i>iso</i>-飽和炭化水素では変態に伴って反対に増加する。<br>3. 総奇数鎖は4齢脱皮殻で90.3%であるが, 蛹化・成虫化と変態に伴って減少し, 蛹脱皮殻で48.7%になる。総偶数鎖は, 変態に伴って反対に増加する。<br>4. 蛹化脱皮直前に, 急増する脱皮殻リピドには<i>iso</i>-飽和炭化水素が多いことが判った。これは繭内における蛹化脱皮を容易にすると考えられる。<br>5. 人工飼料育では桑育に比較して蛹化脱皮殻リピドの炭化水素の組成が幼虫脱皮殻リピドの組成に傾いているように見られる。