著者
岩谷 典学 間部 裕代
出版者
熊本大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

本研究は、年々増加している小児期、思春期の心身症患者について、その病態の一端を明らかにし医学的対応の手掛かりを得るために、身体症状の病態を分子遺伝学的な側面から検討することを目的に行う研究である。遺伝子分析に当たっては当大学医学部倫理委員会の承認を得た後、ヒト末梢血白血球よりgenomic DNA抽出し、Serotonin Transporter (5-HTT)遺伝子の発現を調節するPromoter領域のPolymorphism (5-HTT-linked polymorphic region;5-HTTLPR)について解析を開始した。現在までに49検体を集積し、29検体を解析した。5-HTTLPRのPCR解析では.繰り返し配列の多いL型と、それの少ないS型が認められるが、これまでの解析では慢性疲労症候群19検体については、対照集団と異なりL型の頻度が有意に高かった。すなわち慢性疲労症候群のGenotypeではL/L型、L/S型の頻度が多い傾向にあり、AlleleではL型の頻度が有意に高かった(x^2検定;p=0.05)。これらとうつスコア(SDS)との関係をみると、L型を有する患者群(L/L型およびL/S型)ではS/S型の患者群より有意に(P<0.05)SDSスコアが高かった。またPerformance Statusとは有意な関係はみられなかった。また、摂食障害については、これまでのところ遺伝子多型は対照群と有意差はなく、多型の頻度は対照群と同様な傾向にあると考えられるが、まだ症例数が少ないため検体をさらに集積する予定である。5-HTTLPRはプロモーター部位にあるため、その多型の差により5-HTTの発現量が異なることが報告されている。これらの差はプロモーター活性の差を引き起こし、感情の多型にかかわっている可能性が示唆される。これまでに解析した慢性疲労症候群でみられた対照集団との差が、うつ傾向や睡眠障害などとの関連についてさらに検討を加えていく予定である。