著者
関 貴子 (荒内 貴子)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

(1)意識調査の結果分析(株)日本リサーチが保有する社会調査パネルを用い、日本の人口動態に基づいて抽出した20~75歳未満の市民4,000名を対象に、郵送自記式調査票による調査を実施した。調査にあたっては、東京大学医科学研究所倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号:23-70-0323)。日本の一般市民対象に行った意識調査データセット(2012年に実施、n=2,150、有効回答率53.8%)を分析した。「研究で用いられる遺伝情報の管理に関して、あなたがもっとも懸念すること」を1つだけ挙げてもらったところ、「どのような研究に用いられるかわからないこと」(32%)が最も多く、次いで「誰によって利用されているかわからないこと」(27.5%)が挙げられた。メディアでよく取り上げられる「外部に流出すること」や「あなた個人が特定されるかどうか」といったセキュリティに関連する理由は、それぞれ17.6%、13.7%となっており、研究の用途や利用者に比して低く抑えられていた。(2)クリニカルシークエンスに関する文献調査クリニカルシークエンスとは、次世代シークエンサーを用いるゲノム解析の臨床応用のことである。米国では、次世代シークエンサーを医療機関で利用することに関して、医学的な妥当性の判断のみならず、その倫理的法的社会的課題についても様々な議論が巻き起こっているため、現在の議論を整理するための文献調査を行い、日本で取り組むべき課題を整理した。(3)考察国内の一般市民意識調査結果から明らかになったのは、個人遺伝情報管理のセキュリティにかかわる課題よりも、誰がどのように利用するのか、そして研究結果は開示されるのかといった点が大きな関心事である。しかしながら、文献調査より、次世代シークエンサーの臨床応用が先行した米国では、既に研究結果の開示に関する試行が始まっているが、対応は様々であることが明らかになった。日本でのクリニカルシークエンスはまだ本格化していないが、異なる社会規範やリテラシー環境のなかで、日本ではどのような問題が生じうるのかについて、早急に検討が必要である。