著者
関口 直人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

<B>Ⅰ.はじめに</B> <BR>モータリゼーションの進展により,人々の移動手段は自家用車へと変化し,公共交通機関は衰退へ追い込まれた。特に地方の鉄道や路線バスは苦しい経営となり、代替バスへの転換や第三セクター化もみられるが、1999年の鉄道事業法の改正により鉄道事業に対する参入と退出の自由が認められ経営の苦しい第三セクター鉄道も廃止されるようになった。 <BR>経営が苦しい鉄道路線が多くなる中で,2011年3月11日に発生した東日本大震災はJR線,私鉄線に大きな被害を与えた.震災の被害から全線運休となったが,復旧を遂げた路線やBRT化を進める路線もあるが,鉄道を復旧させるためには費用面など様々な課題がある.被災した第三セクター鉄道には国からの補助により復旧費用は全額負担となったが,過疎化により,利用者が減少しているなど問題が山積みである. <BR>本研究では,東日本大震災で大きな被害を受け,全線運休から一部区間の運転を再開した岩手県三陸鉄道を事例とし,東日本大震災での被害状況と現在までの復旧状況を整理し,運休中の従前の利用者の移動方法,復旧後の利用状況、これまでの研究から三陸鉄道の主な利用者は高校生であることが明らかになっていることから,沿線高校生の震災前後での交通行動の変化を明らかにすることを目的とする. <BR>1年以上の鉄道運休は利用者にどのような影響を与えたのか,震災以前の利用者は回復しているのか,鉄道運休中にはどんな移動方法をとっていたのか把握することは三陸鉄道の震災の影響や,新たな施策の検討につながると考えられる.なお,本報告では,国、県、沿線自治体の補助により復旧計画として掲げた第一次復旧が完了したことから、2012年4月を「現在」と定義する。<BR><B>2.研究方法</B> <BR>三陸鉄道の現状を知るために,『鉄道統計年報』,『岩手県移動報告年報』によって年間乗降人員,沿線人口を整理し,三陸鉄道の震災後の利用状況について知るために三陸鉄道利用者へのアンケート調査,旅客流動調査,沿線高等学校3年生へのアンケート調査を行い,それぞれ分析を行った.<BR><B>3.研究結果</B> <BR>三陸鉄道利用者へのアンケート調査結果は,平日の利用者の中心は、沿線に居住し、日常的に通学目的で三陸鉄道北リアス線を利用する高校生であり、休日の利用者の中心は岩手県外に居住し、低頻度の旅行・観光目的で三陸鉄道北リアス線を利用する広い年齢層にわたる観光客であった。三陸鉄道不通時の移動手段として自動車による送迎、バスでの移動である。また,旅客流動調査からは朝,夕方は高校生の通学定期での乗車が多く,日中は団体割引乗車券で乗車の団体観光客,現金や普通乗車券で乗車の通院や買い物目的の利用が多い.輸送断面は始発駅と終着駅、学校が近隣に立地する駅で利用が多い. <BR>沿線高等学校に対するアンケート調査結果からは、通学や通学目的以外で三陸鉄道北リアス線を利用している生徒はごく一部である。三陸鉄道北リアス線を利用していない生徒の通学や移動手段は自動車による送迎や自転車が多く、居住地によって移動手段が変わる。震災以前から通学に三陸鉄道北リアス線を利用していない生徒が多い。 <BR>震災以前と震災後で三陸鉄道利用者の利用状況に大きな差はない。