著者
関根 清三
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.479-501, 2009-09-30

現代は宗教と倫理の相剋の時代である。しかしこの相剋は必ずしも現代固有の現象ではなく、宗教の側からは古代のイサク献供物語、倫理の側からはアリストテレスの倫理学以来、繰り返し指摘されて来た。後者についてはカント、和辻らの批判があり、特に和辻は空の哲学から倫理の宗教的基礎について語った。しかし和辻自身はその構想を貫徹したとは言えない。また前者については、キルケゴール、レヴィナス、西田幾多郎らの解釈が注目される。特に西田の絶対矛盾的自己同一的神理解は、この物語の新たな読解のために示唆を与える。これらを踏まえ、あわせティリッヒの思索を顧みる時、我々は「宗教」「倫理」両概念ともに再解釈することを迫られる。その結果、宗教とは主観客観図式を超えた無制約的なものと関わることであり、倫理とは人格の統合を促す形で他者との共生を指示する理路であると再定義される。こう理解し直す時、両者相剋の克服の方途もまた、見えて来るに違いない。