著者
岡辺 有紀 關 明日香 三宅 裕子 熊谷 修
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.347-355, 2018-07-15 (Released:2018-07-31)
参考文献数
30

目的 高齢者において食品摂取の多様性を促進することがたんぱく質栄養の改善に有効なことは確認されている。一方,高次生活機能との関連については複数報告があるが,食品摂取の多様性を向上させる介入施策が高次生活機能の変化に及ぼす影響を長期に渡って検討した例は未だない。本研究の目的は地域在宅高齢者を対象とした食品摂取の多様性を改善するプログラムの継続が高次生活機能の変化に及ぼす影響を評価することにある。方法 対象は東京都北区在住の自立高齢者,男性44人女性112人,計156人である。12食品群の摂取の有無をチェックするシート「しっかり食べチェックシート12」(以下,チェックシート)を用いた食品摂取の多様性を促進する介入活動は,2013年から2015年の2年間行い,その1年後である2016年に継続実施の有無を追跡調査した。高次生活機能の自立度の変化は老研式活動能力指標にて測定した。食品摂取の多様性は食品摂取多様性得点で評価した。チェックシートの継続有無による老研式活動能力指標と食品摂取多様性得点の変化とその差は,反復測定による一般線形モデルで解析した。食品摂取の多様性を改善するプログラム継続の影響における独立性の検証は,3年後の老研式活動能力指標総合得点が10点以下か否かを目的変数とした,多重ロジスティック回帰分析によった。結果 活動開始時の対象者の平均年齢は71.76±5.78歳,老研式活動能力指標総合得点は12.48±0.82点,食品摂取多様性得点は4.10±2.36点であった。2016年にチェックシート継続実施が確認できた者は67人(継続群),中断した者は78人(中断群)であった。食品摂取の多様性得点は両群で有意な増加が認められた。一般線形モデルでの解析の結果,継続群では老研式活動能力指標総合得点の有意な低下はみられなかったのに対し中断群では有意に低下し,両群間の変化が異なる傾向が認められた(P=0.087)。さらに,多重ロジスティック回帰の結果,チェックシートの継続は,老研式活動能力指標総合得点が10点以下になることに対して,抑制的に影響する傾向が確認された。(P=0.064,95%CI=0.04-1.09)。結論 高齢者を対象とした栄養改善のためのチェックシートの継続実施は食品摂取の多様性の改善することに加え高次生活機能の自立度の低下を予防する効果もあるのかもしれない。