著者
阪田 祥章
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 (ISSN:18817165)
巻号頁・発行日
no.269, pp.85-131, 2014-02-28

千葉大学大学院人文社会科学研究科研究プロジェクト報告書 第269集 『古代地中海世界における文化受容の諸断面』保坂 高殿 編アテナイの位置するギリシア本土とエーゲ海(アイガイオンの海)を挟んで相対する小アジア西岸地域にエペソスというギリシアの一植民都市がある.紀元前 500 年頃がアクメー(盛年)と伝えられるヘラクレイトスはそのエペソスの人である.本稿は,ヘラクレイトスの最初期の引用者であるプラトンに焦点を当て,プラトンの諸対話篇におけるヘラクレイトスの位置付け,およびプラトンとヘラクレイトス思想との接点の所在について考察しようとするものである.プラトンに焦点を当てる理由は,彼が時代的に最もヘラクレイトスの近接する言及者であるゆえばかりではなく,従来,余り重要視されなかったプラトンの証言を,原典に基づいて再吟味しようという意図も本稿が持つからである.ソクラテス以前の哲学に関する権威的な一解説書であるKRSは,ヘラクレイトスやパルメニデス,エムペドクレスに対するプラトンの言及はしばしば,「傍論(obiter dicta)」に過ぎず,「ありの儘の客観的な歴史的判断(sober and objective historical judgements)というよりも,一方的ないし誇張されたものである」と述べ,プラトンよりもアリストテレスの証言を重要視している.しかし,たとえプラトンの「注釈」が誇張されたものであったとしても,それ故にそれを「傍論(obiter dicta)」としてしか扱わないとすれば,そこに含意される重要な示 唆を見落とす恐れがある.我々はむしろ,その誇張されている部分にいかなる要素が,いかなる背景のもとに含まれているのかを考察するべきではないだろうか.しかしながら,プラトンの諸証言を再吟味することは,アリストテレスの証言を軽視あるいは無視することを…