著者
阿由葉 司
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

三方を海に囲まれた房総地方では、古くから漁業が盛んで、特に江戸時代以降は九十九里地方でのイワシの地引網漁業や、東京湾での海苔養殖など特徴的な漁業が展開してきた。こうした房総地方の漁業は、江戸時代に紀伊半島を中心とした関西地方との密接なつながりが指摘されてきたが、それ以外に東北地方の三陸沿岸地域とのつながりも認められるところである。本研究は、こうした両地域の地域間交流の実態を、特に漁民の広域移動や漁民信仰の観点から捉えることを目的とし、平成12年度から研究をおこなってきたものである。研究最終年度である平成15年度については、これまでおこなってきた三陸地域での調査を総括、整理する作業を中心に実施したところである。こうした作業のなかで、岩手県釜石市およびそこに隣接する大槌町において三陸地方と房総半島との関係を推測させる事例の確認ができた。これは三陸沿岸地域に広範に分布している「鹿踊り」という伝統芸能のなかに「房州踊り」と俗称されるものが散見し、こうした地域がかつて漁労技術の継承を三陸と房総のあいだでおこなってきた地域であることも判明した。なお、歴史的に重要な関連を持つと思われる「前川家文書」(旧水産庁所蔵)について当初調査をおこなう計画であったが、現在同史料を所蔵する中央水産研究センターにおいて、継続的な整理が進行中であったため、本研究のなかで調査をすることは見合わせ、整理の完了をまつこととした。