著者
阿由葉 司
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

三方を海に囲まれた房総地方では、古くから漁業が盛んで、特に江戸時代以降は九十九里地方でのイワシの地引網漁業や、東京湾での海苔養殖など特徴的な漁業が展開してきた。こうした房総地方の漁業は、江戸時代に紀伊半島を中心とした関西地方との密接なつながりが指摘されてきたが、それ以外に東北地方の三陸沿岸地域とのつながりも認められるところである。本研究は、こうした両地域の地域間交流の実態を、特に漁民の広域移動や漁民信仰の観点から捉えることを目的とし、平成12年度から研究をおこなってきたものである。研究最終年度である平成15年度については、これまでおこなってきた三陸地域での調査を総括、整理する作業を中心に実施したところである。こうした作業のなかで、岩手県釜石市およびそこに隣接する大槌町において三陸地方と房総半島との関係を推測させる事例の確認ができた。これは三陸沿岸地域に広範に分布している「鹿踊り」という伝統芸能のなかに「房州踊り」と俗称されるものが散見し、こうした地域がかつて漁労技術の継承を三陸と房総のあいだでおこなってきた地域であることも判明した。なお、歴史的に重要な関連を持つと思われる「前川家文書」(旧水産庁所蔵)について当初調査をおこなう計画であったが、現在同史料を所蔵する中央水産研究センターにおいて、継続的な整理が進行中であったため、本研究のなかで調査をすることは見合わせ、整理の完了をまつこととした。
著者
奥田 昌明
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

琵琶湖の堆積物を分析し、モダンアナログ法を用いて化石花粉(%)を古気温(℃)に定量変換することによりMIS1~MIS11間氷期の古気温を復元した。MIS5eおよびMIS11は、気候状態が現在と似ていることから温暖化後の地球のアナログとみられる。このMIS11(43万年前)において本研究では、琵琶湖が今の和歌山県南部くらいの暖かさにあったことを突きとめた。具体的には、7千年前の気候最適期に対して+1~1.5℃、300年前の産業革命前と比べて+1.5~2.5℃の温暖環境となる。これは100年後の気温上昇と比べるとやや足りないが、今後のCO2削減努力いかんでは100年後の地球のアナログになり得る。
著者
黒住 耐二
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

弥生から古代の真珠採集遺跡の発見のために、文献・資料・現地調査を行 った。その結果、福岡県糸島市の弥生~古墳の天神山貝塚でのみ、真珠貝の一種、アコヤガイの複 数出土を確認し、この遺跡が真珠採集遺跡である可能性を認めた。また、同時期の沖縄諸島では複 数の遺跡が真珠採集遺跡であると考えた。中国広西チワン族自治区の珍珠城とスリランカのマナール で、これまで明らかになっていなかった真珠採集遺跡の状況を確認した。
著者
甲能 直樹
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本年度の研究では、仙台の中新統から産した最古のセイウチ科鰭脚類、Prototaria Planicephala Kohno,1994(以下化石セイウチ)のタイプ標本の頭蓋腔を完全に剖出した上で、脳の印象模型(エンドキャスト)を作製し、各部位の比較神経解剖学的な記載を行なった。この過程で、化石セイウチの大脳表面の各機能単位を決定するため、現生鰭脚類および陸生食肉類との解剖学的特徴を比較検討し、とくに現生食肉類との相同関係に基づいて各大脳溝および大脳回(いわゆる脳の皺)を同定した。さらに、電気神経生理学によって明らかにされている現生食肉類の脳の機能分布との比較から、化石セイウチの脳の機能分布地図の復元を試みた。化石セイウチの脳神経は、現生鰭脚類と異なり嗅神経(嗅球)の発達が比較的よく、嗅感覚は海洋生活への依存度がより強い現生鰭脚類に比べて鋭かったことがわかった。また、三叉神経第2枝(上顎神経)が極めてよく発達しており、上唇部を中心とした上顎神経支配領域の感覚がすでに現生鰭脚類と同程度に発達していたことがわかった。大脳形態については、全体に側方への拡大が目立ち、とくに冠状脳回(前側頭部)が目立って拡大していることから、吻部の触覚機能の強化(洞毛の発達)が推定認された。また、後S字状脳回(最前側頭部)も拡大の傾向が認められることから、顔面の運動機能と感覚を司る領域全体が著しく発達していることが改めて確認できた。しかしながら、初期のセイウチ科鰭脚類が、まず最初に魚食適応したのか、あるいは沿岸域の雑食性であったのかを明かにするために、更に詳しい大脳表面の解析が今後の課題となる。
著者
島立 理子 八木 玲子 小田島 高之
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

この研究は市民、地域の人々と連携して地域にある「資料」を掘り起こし共有することを通して、日本におけるエコミュージアムのあり方について検討する実践的な研究である。千葉県立中央博物館が行っているフィールド・ミュージアムにおいて、博物館行事参加者との連携、博物館・公民館・図書館との連携、地域の人々との協働調査を実施した。連携にあたっては、それぞれの機関の得意分野を活かした連携が必要であることがわかった。また、地域の人々との連携にあたっては知識を一方的に伝えるのではなく、ともに活動することで新たな資料の掘り起こしが可能となることがわかった。
著者
川瀬 裕司 須之部 友基
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

海水温の上昇が沿岸性魚類の繁殖に及ぼす影響を解明するため,過去の繁殖記録の集約と現 在の繁殖状況のモニタリングを各地で行った.八丈島からはスズメダイ科7 属23 種の繁殖が 確認され,多くの種では春から秋にかけて繁殖行動が観察された.繁殖終了時の水温は繁殖開 始時より高く,繁殖の継続期間は水温以外の要因によって決定されていることが示唆された. 一方,水温が低くなる秋以降を中心に繁殖する種や,水温条件によってはほぼ年間を通して繁 殖する種も確認された.
著者
吉村 光敏 白井 豊
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

(目的)既存の干葉県・埼玉県・栃木県・群馬県・神奈川県等の道標データに新発見の神奈川県、茨城県、干葉県内データを加える。東京都の道標のデータベース化を行う。(作業内容)1。資料収集:東京都、神奈川県の道標所在調査データの収集を図書館等で行った。2。現地調査:特に千葉県・埼玉県内の道標につき、-部地域について道標の旧位置確認や銘文の不明瞭個所の再検討作業を行った。3。データベース入力:東京都を除く関東各都県(主に神奈川県)のデータ入力を行う。(データ処理)1。関東地方の都市交通圏図の作成を行いつつある。2。千葉県北東部の道路網図(近世中期、後期)を作成した。(結果)1。関東地方の都市の都市交通圏は径15-20キロの略円形の交通圏をもつ、地方中心都市の交通圏が併存していることが確かめられた。2。江戸の近傍には日帰り、1泊の参詣旅行ルートに対応した網の目状の交通路が近世後期に発展した。それに対し、より遠方では、主な街道沿いの通過交通を主とした交通網が形成された。この道路網の形態は単線状で、主要霊場あるいは湯治場を結ぶ道であった。この道に沿道の寺社霊地が組み込まれた交通網が形成されたらしい。3。収集したデータをもとに、処理作業中であり、図の完成には至っていない。
著者
森田 利仁
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

海棲巻貝サザエ約300個体について、殻の成長方向に障害物(シリコンゴム)を付着させる実験を行った結果、殻の成長に、次のような迂回反応が認められた。1.障害物が成長ルートの上部(殻頂側)に存在するとき、殻口は障害物に衝突する直前に下方(反殻頂)側に向き、障害物を下から迂回し、迂回後に再び上方に向かって成長する。2.障害物が成長ルートの下部(反殻頂側)に存在するとき、殻口は障害物に衝突後、一時前方への成長を停止し、その間殻口が外側に膨張する。その後、下方迂回をしつつ障害物を乗り越える。この二つの迂回パタンはともに、殻成長の方向を決定するのに、頭足塊が殻口の外に伸びる方向が強く関与していることを示唆している。このことを証明するために、あらかじめ内在的に決定されている付加殻の成長形が、頭足塊の伸び方向によって変形されるという、単純な数値計算上のモデルを立て、殻成長と障害物への反応をシミュレーションした。その結果、1.付加殻の成長形がたとえ巻き成長にあらかじめ決定されていなくても、頭足塊による変形によって、巻貝類が一般的に有する規則的な密巻き螺旋成長を生成できることが示された。2.この頭足塊による変形のみで生成された殻成長パタンは、障害物に対する下方迂回パタンを示すことも示された。以上の実験とシミュレーションの結果から、巻貝類の殻の巻き方には、殻口(直接的には殻を作り出す外套膜組織)に対する頭足塊の力学的な押し付け効果が、重要な影響を与えていることが明らかとなった。このことから、頭足塊と殻口との接触が避けられない生息姿勢で殻を成長させる巻貝類が、螺管どうしが重なる、密巻き型の巻き方しか有さないという形態進化のパタンを、古典的な適応進化の結果とする解釈ではなく、むしろ巻き方進化における発生上の制約として解釈することができる。
著者
古木 達郎
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

苔類ツキヌキゴケ科について多様性と種分化を研究し、Mizutaniaについて雄枝を初めて発見し、かつ植物 体は他に類縁を見いだせないほどネオテニーが進んでおり、非常に特異であることを論じた。また、日本産 の分類学的再検討によって3属18種を認めた。トサホラゴケモドキとツキヌキゴケのタイプ標本の解釈の誤り、 フジホラゴケモドキが台湾産Calypogeia formosaと同種であること、タカネツキヌキゴケが基本種と同種であ ることなどを確認した。更に、ハワイ諸島産について3属6種、マレーシアに2属種5を認めた。
著者
倉西 良一 岸本 亨 東城 幸治
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

河川の上流、特に源流部には独特な生物が棲息する。源流のみに生息する種は、生息地が局限されること、生物の環境要求がきびしいため地域個体群の絶滅が起こりやすい状況にある。このことから源流生息種は、国や地方自治体のレッドデータブックによく掲載されている。本研究では、河川の上流(源流)に生息する種の分布や生態の調査を行い基本的な知見を得ることを第一の目標とした。さらにカゲロウ、カワゲラ、トビケラといった水生昆虫の源流生息種について遺伝子解析を行い、個体群間の類縁度などから保全すべき個体群の推定を行った。河川上流に生息するさまざまな水生昆虫の中でもガガンボカゲロウ類、トワダカワゲラ類、ナガレトビケラ類のいくつかの種群の昆虫は河川源流域の冷たい湧水や細流のみに生息する。これまでに日本各地より採集された、ナガレトビケラ科12種、ガガンボカゲロウ2種、トワダカワゲラ科4種について遺伝子解析を行った。ガガンボカゲロウ属の2種は、全国で採集された個体群を比較したところ、地域固有の八プロタイプが多数認められた。これは生息環境が河川源流部に局限されること、成虫が活動的ではなく分散能力が低いことに起因すると考えられた。ガガンボカゲロウ属に関しては、地域間の遺伝子交流がほとんどないことから、それぞれの地域個体群が独立した存在であり、種レベルではなく地域ことに念入りな保全が望まれるごとが明らかとなった。これに対しトワダカワゲラは、成虫が無翅で飛翔力なく、分布が局所的であることなどから地域固有の遺伝子をもつ個体群が認識されるという仮説を持ってはいたが、本州から北海道にかけての個体群を解析したところ、個体群間の遺伝的変異は小さいことが明らかとなった。従来、原始的な形態をもつと考えられていたトワダカワゲラ科は、系統的にもそれほど古い昆虫ではなく、大陸起源であり朝鮮半島から日本に入り分布を広げ、種分化は比較的新しい時代に生じたと考えられた。ナガレトビケラ類は、解析できた地域個体群の数が少ないため種内の遺伝的変異の度合いはまだ解明の途上にあり、結果がまとまりしだい公開したいと考えている。
著者
落合 啓二
出版者
千葉県立中央博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1.ニホンカモシカの生息密度,なわばりサイズ,食物条件,成獣メスの繁殖成功率の相互関係を明らかにするため,青森県下北半島(標高0-240m),山形県朝日山地(標高500-1100m),長野県上高地(標高1500-2000m)の3地域で調査を実施した.2.生息密度は,下北で14.2±2.5頭/km^2,朝日で7.4頭/km^2,上高地で1,6頭/km^2であった.成獣メスの年間なわばりサイズは,下北で10.5±3.6ha,朝日で29.8±3.6ha,上高地で49.8±31.6haであった.3.繁殖成功(成獣メスが出産し,かつ生後1年までその子が生存した場合)率は,下北で38.1%,山形県朝日山地で29.6%,長野県上高地で15.8%であった.4.雪上のトレース調査に基づき,冬顛の食物量指数(FAI:採食対象木本の幹の雪面断面積合計)と採食効率を調査した.平均FAIは,下北で1871.4mmm^2/10m^2,朝日で1236.2m^2/10m^2(下北の66.1%),上高地で869。8mm^2/10m^2(下北の46.5%)であり,地域間で有意差が認められた.採食効率は,下北で59.1個/10m^2,朝日で38.2個/10m^2(下北の64.6%),上高地で10.4個/10m^2(下北の17.6%)であり,同様に3地域間で有意差が認められた.5.なわばりサイズと生息密度の間,冬期食物量指数と冬期採食効率の間,冬期食物量指数となわばりサイズの問,及び冬期食物量指数と繁殖成功率の間で,それぞれ相関関係が認められた.即ち,海岸沿いで標高が低く,積雪量の少ない下北半島では,好適な食物条件に支えられる狭いなわばりサイズと高い繁殖率が高い生息密度をもたらしていること,反対に標高が高く,気象条件の厳しい亜高山帯の上高地では,低質な食物条件に起因する広いなわばりサイズと低い繁殖率が低い生息密度をもたらしていることが示された.