- 著者
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落合 啓二
- 出版者
- 千葉県立中央博物館
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
1.ニホンカモシカの生息密度,なわばりサイズ,食物条件,成獣メスの繁殖成功率の相互関係を明らかにするため,青森県下北半島(標高0-240m),山形県朝日山地(標高500-1100m),長野県上高地(標高1500-2000m)の3地域で調査を実施した.2.生息密度は,下北で14.2±2.5頭/km^2,朝日で7.4頭/km^2,上高地で1,6頭/km^2であった.成獣メスの年間なわばりサイズは,下北で10.5±3.6ha,朝日で29.8±3.6ha,上高地で49.8±31.6haであった.3.繁殖成功(成獣メスが出産し,かつ生後1年までその子が生存した場合)率は,下北で38.1%,山形県朝日山地で29.6%,長野県上高地で15.8%であった.4.雪上のトレース調査に基づき,冬顛の食物量指数(FAI:採食対象木本の幹の雪面断面積合計)と採食効率を調査した.平均FAIは,下北で1871.4mmm^2/10m^2,朝日で1236.2m^2/10m^2(下北の66.1%),上高地で869。8mm^2/10m^2(下北の46.5%)であり,地域間で有意差が認められた.採食効率は,下北で59.1個/10m^2,朝日で38.2個/10m^2(下北の64.6%),上高地で10.4個/10m^2(下北の17.6%)であり,同様に3地域間で有意差が認められた.5.なわばりサイズと生息密度の間,冬期食物量指数と冬期採食効率の間,冬期食物量指数となわばりサイズの問,及び冬期食物量指数と繁殖成功率の間で,それぞれ相関関係が認められた.即ち,海岸沿いで標高が低く,積雪量の少ない下北半島では,好適な食物条件に支えられる狭いなわばりサイズと高い繁殖率が高い生息密度をもたらしていること,反対に標高が高く,気象条件の厳しい亜高山帯の上高地では,低質な食物条件に起因する広いなわばりサイズと低い繁殖率が低い生息密度をもたらしていることが示された.