著者
阿部 温子
出版者
桜美林大学
雑誌
国際学レヴュー (ISSN:09162690)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.89-112, 2003-03-31

グローバリゼーションが喧伝される中、国境を越えたヒトの移動も活発化しているが、国家、特に先進諸国家はモノや資本の移動と比べ、一般に移民や難民の流入を歓迎していない。他方国家は、高度な技術をもった労働者を国内のみならず国外からも惹きつけることで、自国経済の成長を支えることをも求められている。このような世界規模での変化の中、従来の国民国家に課された役割とは異質な役割が、現在の国家には期待されていると考えられる。先進諸国においてはいずれも、移民・難民に関わる問題が、政治および社会における最重要課題の一つと見なされている。日本の場合、欧米諸国に比べれば移民問題の政治化の度合いは弱く、移民に関わる様々な課題について、外国入集住地域では地方政治レベルでの議論が活発となっているものの、全国レベルでの議論は未だ成熟していない。この小論では、かかる日本の状況を整理し、国家の移民政策がどのような指針に基づいているのか、もしくはその指針がどのように変化してきているのかを追う。日本の状況を考察するにあたり、諸外国との比較も有用であるが、かつて移民送出国であったが今では逆に移民流入が大きな社会政治問題となっている西ヨーロッパ諸国との比較が、アメリカ、オーストラリアといったいわゆる伝統的な移民国家との比較よりも、国家に対する期待について考察するのに興味深い分析が可能であろう。