著者
石田 恵子 天野 徹哉 阿部野 悦子 中嶋 正明
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F1016, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 我々は,これまで末梢循環障害,褥瘡などの症例に人工炭酸泉浴を適応し,高い効果を確認してきた。人工炭酸泉浴を負荷すると一時的に皮膚血管拡張作用が得られ,皮膚血流が促進することがわかっている。しかし,人工炭酸泉浴負荷によるこのような末梢循環障害,褥瘡改善効果が一時的な血管拡張作用によるとは考えられない。これには,他の持続する作用が関与していると考えられる。今回,我々は人工炭酸泉浴負荷後の深部組織酸素飽和度(StO2)を経時的に評価した。【方法】 対象は健常成人3名(平均年齢28.3±1.3)とした。被験者は半仰臥位のリラックスした肢位をとり,不感温度34°Cのさら湯浴と同温度の人工炭酸泉浴に両下腿(腓骨頭まで)を浸水した。測定プローブは非浸水部の左前腕内側と浸水部の左下腿後面部に添付した。浸水前の安静時10分間,浸水時20分間,浸水後2時間の皮膚血流,深部組織血液動態(oxy-Hb,doxy-Hb)を測定した。室温は24±1°Cに調整した。人工炭酸泉は高濃度人工炭酸泉製造装置(MITSUBISHI RAYON ENGINEERING CO.,LTD)を用いて作製し,その濃度は1000ppmとした。皮膚血流および深部血流,StO2(Oxy-Hb,doxy-Hb)の測定には,それぞれレーザードップラー血流計(ADVANCE RASER FLOWMETER),近赤外線分光器(OMEGA MONITOR BOM-L1TR)を用いた。【結果】‹皮膚血流›浸水部;さら湯浴においては経時的変化はみられなかったが,人工炭酸泉浴では入浴負荷時にのみ上昇が認められた。非浸水部;さら湯浴,人工炭酸泉浴ともに経時的変化はみられなかった。StO2浸水部;さら湯浴においては経時的変化はみられなかったが,人工炭酸泉浴では入浴負荷時に上昇を認め,出浴後もほぼ同値を2時間継続して示した。非浸水部;人工炭酸泉浴では浸水部と同様に入浴負荷時から出浴2時間後まで高値を示した。【考察】 人工炭酸泉浴の入浴負荷により皮膚血流は増加したが持続性は認められなかった。それに対し,StO2は2時間後も高値を維持した。人工炭酸泉浴では,炭酸ガスの経皮進入によりpHが酸性に傾きBohr効果による酸素供給促進作用が得られる。この効果により組織中に通常の状態に比べて深部組織のStO2が上昇する。今回の実験からこの効果が持続することが明らかとなった。閉塞性動脈硬化症や褥瘡などの循環障害に対する人工炭酸泉浴による改善効果においては,持続するStO2上昇作用がその一役を担っているのではないかと考えられる。また,非浸水部においても同様にStO2の上昇が起こったことから患部を直接,入浴負荷しなくても改善効果を得られると予想される。